弁護士 杉浦 恵一
夫婦は、通常、同居して協力する義務があり、争いのない夫婦では、単身赴任など事情がある場合を除き、一般的には同居して生活することが多いでしょう。
夫婦は同居するものだと考えられていますので、こういった考えが反映され、民法752条では、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と定められています。
また、こういった条文があることを踏まえて、同居を求める調停や、同居を求める審判といった手続もあります(もっとも、同居を求める審判で、同居が命じられる事例は多くはないようです)。
他方で、夫婦の仲が悪くなりますと、一般的には、一緒に生活することが苦痛になってくるため、別居するようになるのではないかと思われます。
別居する際に、賃貸物件に引っ越す場合や、実家に引っ越す場合もありますが、結婚中に買った不動産に、夫婦の一方が住み続け、夫婦のもう一方が出て行って別居するという場合もあります。
このような場合、結婚中に買った不動産に住み続けるのは、必ずしもその名義人に限られるわけではなく、名義を有していない側が住み続け、名義を有している側が出て行く場合も実際にあります。
そうすると、名義を有している側は、名義を有していない側に対して、名義がないから出て行ってほしいと思うでしょう。
このようなときに、名義があるからといって、結婚中に買った不動産から出て行ってもらえるのかという疑問が発生します。
このような事例について判断された事例として、札幌地方裁判所 平成30年7月26日判決があります。
この事例は、原告が元夫、被告が元妻であり、夫婦が結婚中に争いとなった建物を、元夫名義で購入し、その後、離婚したというものでした。
元妻は、離婚した後もこの建物に住み続けていたけれども、元夫が元妻に対して、所有権に基づく建物明渡請求と賃料相当の損害金を支払うように請求したという事例でした。
ちなみに、この元夫婦の間には、離婚後、元妻から元夫に対して、建物などの財産分与を求める審判手続が行われていた途中ということです。
この事案では、元妻は、①元妻も結婚中に買った建物の共有持分権を有しているので、明渡は認められない(共有持分権という権利に基づいて住んでいるため)、②元夫から無償で住むことが認められているから、使用貸借権が存在する、③元夫の明渡請求は、権利濫用に当たる、といった主張をしていました。
裁判所は、
①財産分与請求権は、協議・審判によって具体的内容を決定されることを要することと、住宅ローンの負債額が元夫婦の総資産額の合計を上回っていると認められるから、元妻は建物に対して具体的な共有持分権を有しているとすることはできない、
②元夫婦間で使用貸借契約が黙示的に締結されたとしても、その性質上当然に、離婚を解除条件としたものだと解釈されるから、使用貸借権があるとは言えない、
③婚姻期間中に形成された財産関係の離婚に伴う精算は財産分与手続によるのが原則であるから、建物が誰に帰属するかは財産分与手続で決められるべきであって、元妻は潜在的な建物の持分を有しているため、これ自体は未定的なものであっても財産分与の当事者間で十分に尊重されるべきとして、元妻の潜在的な持分を不当に害すると評価される明渡請求は、権利の濫用に当たる、という判断でした。
つまり、財産分与の審判がはっきりと決まっていない当時者間で、結婚中に購入した財産である建物の明渡を求めることは、権利の濫用として認められない、という結論のようです。
ただし、賃料相当損害金は認められていますので、明渡は認められない代わりに、賃料相当の金銭は支払うべきとされています。
この事例では、あくまで元妻の住んでいるたてものが、ローンを組んで購入された物件であるという前提ですので、夫婦のどちらか又は双方が一括で購入した物件であれば、また事情は変わってくるかもしれませんが、住宅を購入するのはローンを組むことが多いと思われますので、この事例は、同じような状況にある元夫婦間では、参考になるでしょう。
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