2019年12月14日の日本経済新聞で、兵庫県明石市が、養育費の不払いに対する新しい制度を2021年にも設けるという報道がされていました。

兵庫県明石市の市長は、法曹資格（弁護士登録できる資格）を持っており、弁護士として活動していたこともあり、色々な施策を行うことで有名ではあります。

離婚した家庭の養育費は、厚生労働省による平成28年の全国ひとり親世帯等調査によりますと、母子世帯と父子世帯で分かれるようです。

養育費の取り決めをしている世帯は、母子世帯では約42%あり、父子世帯では約20%となっています。

また、養育費を受け取っているかどうかは、調査時点で養育費を受け取っている母子世帯では約24%あり、父子世帯では約3%となっています。

養育費を受け取っている世帯での平均的な受取金額は、母子世帯では月約4万3000円であり、父子世帯では月約3万2000円という調査結果でした。

一般に、養育費を受け取っている家庭は約2割と言われることもありますが、おそらくこのような厚生労働者の調査のうち、母子世帯の割合が使われていると思われます。

養育費を受け取らない理由は様々なものがあり、離婚を早くする代わりに養育費を請求しない場合や、面会交流を求められない代わりに養育費を請求しない場合、十分に収入がある（または実家の援助が受けられる）ので養育費を請求しない場合なども考えられます。

しかし、実態としては、養育費が取り決められていない、または取り決めても支払われていないという場合もあり得ます。

平成28年の厚生労働省の調査では、母子世帯では5割以上が養育費の支払いを受けたことがないと回答しており、養育費の取り決めをしていない世帯では、取り決めをしていない最も大きな理由として、相手に支払う意思がないと思ったという項目（約17%）と相手に支払う能力がないと思ったという項目（約20%）が大きな割合を占めています。

兵庫県明石市の新しい制度ですが、これは明石市が養育費の立て替え払いをするという制度です。

具体的な検討内容としては明石市が養育費をいったん立て替えて、養育費を支払われていない家庭に支払い、養育費を支払っていない親に対して請求・徴収するという制度のようです。

既に決まった過去の養育費は、金銭債権ですので、これを明石市が代わりに支払って（代位弁済）、不払いをしている親に求償権を取得するという法律的な理屈が考えられます。

報道でも、そのような理屈で、立て替え払いした金額を請求するようです。

明石市では、支払う能力がありながら支払いに応じない場合に、支払い命令を出したり、反則金（過料）を徴収したり、氏名を公表したりと、行政罰も検討しているようです。

養育費を支払っていないこと自体は、現時点では罰則はありません（強制執行などをされて、事実上の制裁を受けることは含みません）。

そのため、当事者間での不払いに罰則がないにもかかわらず、行政が関わると罰則が科されるという点の妥当性は議論を呼びそうです。

ただ、市町村は住民税の徴収のため、住民の勤務先の情報など様々な情報をもっています。そのため、養育費の立て替え払いを行い、求償権を取得し、その求償権を支払わない者がいた場合には、市町村からの強制執行は、個人が行うよりも行いやすいでしょう。

このような制度は、養育費の不払いを解消する手段として、一定の実効性があると予想されます。

実施する上では、養育費が公正証書や裁判所の手続で確定していることは、少なくとも必要だと思われますが、厚生労働省の調査では、約9割の母子世帯と約9割の父子世帯が、養育費の取り決め自体をしていませんので、まずは養育費の取り決めを促進することへの援助もあわせて必要でしょう。