夫婦が不仲となり別居する際、父母のどちらが子供の監護者となるのかについて、夫婦間で取り決めたうえで別居するのが望ましいとは思いますが、取り決めができない場合、やむを得ず父母のどちらかが子を連れて出ていくこともあると思います。
配偶者のどちらかが勝手に子を連れて出て行ってしまった場合、子を連れていかれてしまった側の配偶者は、子の監護者指定・子の引渡しの審判を申立て、子を自分のもとに引き渡すよう請求することができます。
上記の申立てがなされると、裁判所は、父母のどちらかを子の監護者に指定することになります。
子を連れて別居した側の配偶者が監護者と指定された場合は、子の監護を継続する(子と一緒に暮らし続ける)ことになります。
一方、子を連れていかれてしまった側を監護者に指定する場合には、子を連れて行った配偶者に対し、子を監護者に引き渡すよう命じることになります。
子供を連れていかれた側の配偶者が監護者に指定され、かかる審判に基づいて相手方配偶者に子を引き渡すように求めたけれども、応じてもらえない場合には、強制執行を検討することになります。
子の引渡しを求める強制執行には
①執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しを実施させる直接的な強制執行の方法
②義務の履行まで一定の金銭の支払いを命ずる間接強制の方法
という2つの方法があります(民事執行法174条1項)。
もっとも、①の直接的な強制執行の方法は、子の心身に与える負担を最小限にとどめる観点から
・間接強制の決定が確定した日から2週間を経過したとき
・間接強制を実施しても、債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき
・子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき
のいずれかに該当する時でなければ、まずは間接強制から始めることになります(民事執行法174条2項)。
子の引渡しを求める側からすれば、直接強制によって一刻も早く子供を取り戻したいと思われるかもしれませんが、経験上、直接強制が認められるまでには相応の時間と費用がかかりますし、間接強制の方法は、子供を引き渡さない配偶者に対し、結構な経済的負荷を与えますので、思いのほか効果が認められる場合もあります。
そのため、差し迫った緊急性がない場合には、ひとまず間接強制を申立てたうえで、直接強制の準備を進めるのもいいのではと思います。
それでは、子供が引き渡しを拒んでいる場合にも間接強制が認められるのでしょうか。
この点については、参考となる最高裁判所の判例があります。
最高裁判所平成31年4月26日
子の引渡しを命ずる審判は、家庭裁判所が、子の監護に関する処分として、一方の親の監護下にある子を他方の親の監護下に置くことが子の利益にかなうと判断し、当該子を当該他方の親の監護下に移すよう命ずるものであり、これにより子の引渡しを命ぜられた者は、子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ、
子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ、合理的に必要と考えられる行為を行って、子の引渡しを実現しなければならないものである。このことは、子が引き渡されることを望まない場合であっても異ならない。したがって、子の引渡しを命ずる審判がされた場合、当該子が債権者に引き渡されることを拒絶する意思を表明していることは、直ちに当該審判を債務名義とする間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない。
上記判例は、上記の基準を掲げ、当該事案については、①長男(9歳7カ月)が執行の際、拒絶して呼吸困難に陥りそうになり執行が不能とされた、②人身保護請求の期日において、長男が引き渡し拒絶の意思を明確に示し、自由意思に基づいてとどまっているものとして人身保護請求が棄却された、との事情から、長男の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ長男の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる抗告人の行為は、具体的に想定することが困難であるとの評価をして、間接強制の申立てを権利の濫用にあたるとしました。
これに対し、最高裁判所令和4年11月30日は、上記基準にしたがって判断した結果、間接強制の申立てを権利の濫用には当たらないと判断しました。
いずれも最高裁の決定が出た時点
令和2年8月 父が子らを連れて別居
令和2年12月 和歌山家庭裁判所が子らの監護者を母と指定
令和3年4月5日 母が相手方の自宅に赴き、二男の引渡しを受ける
長男は、2時間にわたり説得したが応じなかった
令和3年5月30日 長男と二男を面会させる機会を設けたところ、二男と一緒に母がいたことに長男が強く反発した。
令和3年6月9日 抗告人が間接強制の申立て
家庭裁判所
長男を引き渡すまで1日につき2万円を支払うよう命じた
↓ 相手方である父が抗告
高等裁判所
現時点において、本件子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ本件子の引渡しを実現するために合理的に必要と考えられる抗告人の行為を具体的に想定することは困難というべきである。
本件審判では考慮することができなかった本件審判確定後に明らかとなったこのような事情の下において、本件審判を債務名義とする間接強制決定により、抗告人に対して金銭の支払を命じることで心理的に圧迫を加えて本件子の引渡しを強制することは、過酷な執行として許されないと解するのが相当である。
そうすると、このような決定を求める本件申立ては、権利の濫用に当たるものであって認められない
↓ 抗告人である母が抗告
最高裁判所
家庭裁判所の審判により子の引渡しを命ぜられた者は、子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ、
子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ、合理的に必要と考えられる行為を行って、子の引渡しを実現しなければならないものであり、このことは、子が引き渡されることを望まない場合であっても異ならない。
したがって、子の引渡しを命ずる審判がされた場合、当該子が債権者に引き渡されることを拒絶する意思を表明していることは、直ちに当該審判を債務名義とする間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではないと解される(最高裁平成30年(許)第13号同31年4月26日第三小法廷決定・裁判集民事261号247頁参照)。
そうすると、長男が抗告人に引き渡されることを拒絶する意思を表明したことは、直ちに本件申立てに基づいて間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではなく、本件において、ほかにこれを妨げる理由となる事情は見当たらない。原審は、上記意思が現在における長男の真意であると認められ、長男の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ長男の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる相手方の行為を具体的に想定することが困難であるとして、
本件申立てが権利の濫用に当たるというが、本件審判の確定から約2か月の間に2回にわたり長男が抗告人に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまる本件の事実関係の下においては、そのようにいうことはできない。
したがって、本件申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。
子の引渡しについての間接強制の申立ては、一般的に、比較的近い時期に裁判所が適正な監護者であるとしてお墨付きを与えた監護者の申立てによるものですので、執行裁判所は、
監護者指定の審判後に余程の大きな事情の変更がない限りは、審判内容をそのまま実現する方向になると思われます。
上記の平成31年と令和4年の判例で結論が別れたのは、平成31年の事案は、単に当事者間での引渡しが実現しなかったというだけでなく、
直接強制が執行不能となっていることや、裁判所の前で長男が明確に引き渡されるのを拒絶する意思を明らかにしたことで人身保護請求が認められなかったという、裁判所の目から見て、長男が引き渡しを拒んでいることの客観的に明白な事情があったからだと思われます。
重要なのは面会交流が適切に実施されることですから、慰謝料請求には慎重になるべきだと考えることもできます。
したがって、単に子供が引き渡されるのを拒んでいたとしても、間接強制の申立てが認められないということは、可能性としては少ないと思われますので、子供を引き渡すことがどうしても困難だという場合には、早い段階で、再度、監護者を定める調停や審判を申立て、裁判所の判断を仰ぐなどことが必要になるものと思われます。
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