財産分与の審判や離婚訴訟において、自分が支払いを受ける側だと思って財産分与を申し立てたけれども、財産を整理していく中で、実は、財産分与の申立人が支払う側であることが判明することもあります。
逆に、財産分与を申立てられ、てっきり財産分与を支払う側だと思っていたけれども、財産を整理していく中で、実は支払ってもらえる側だったということもあると思います。
最近は、共働きの夫婦が増え、共有財産中、妻名義の財産が占める割合が高くなってきていますので、こういったケースは、以前よりも増えているかもしれません。
それでは、一方の配偶者が財産分与の給付を受ける側の権利者であると考えて財産分与の申立てをした場合において、裁判所は、財産分与の申立てをしていない相手方配偶者への財産分与を命ずることができるのでしょうか。
この点が問題になった裁判例を紹介します。
下記裁判例は、「少なくとも相手方が、当該審判の手続において、自らが給付を受けるべき権利者であり、申立人に対して給付を求める旨を主張しているときは」、「申立人に対して相手方への給付を命じることができる」としています。
財産分与を申立てた側が、逆に支払う側になってしまう可能性もあるということです。
財産分与に関する処分の審判事件においては、分与を求める額及び方法を特定して申立てをすることを要するものではなく、単に抽象的に財産の分与の申立てをすれば足り(略)、また、裁判所は申立人の主張に拘束されることなく自らその正当と認めるところに従って分与の有無、その額及び方法を定めるべきものであるところ(略)、当該審判事件の審理の対象が、基本的に離婚の際の夫婦共有財産の清算であって、当事者の一方から他方に対する分与の是非並びに分与の額及び方法は、裁判所が当該清算の結果等一切の事情を考慮してこれを定めることとされていることからすると、裁判所において、財産分与に関する処分の審判の申立人が給付を受けるべき権利者となるように財産分与の内容を定めるか、そうでなければ当該審判の申立てを却下しなければならないものと解すべき理由はなく、相手方が給付を受けるべき権利者となるような財産分与を定めることも可能であると解される。
このような解釈は、財産分与に関する処分の審判事件において審判を得ることについて、申立てを受けた相手方の正当な利益を保護するため、相手方が本案について書面を提出し、または期日において陳述した後は、申立ての取り下げについて相手方の同意を得なければ、その効力を生じないものとする特則を定めた家事事件手続法153条とも符合するといえる。
もっとも、財産分与に関する処分の審判の申立てが、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができない時にされるものであること(民法768条2項本文)に鑑みると、審判の申立人が自らが給付を受けるべき権利者であると主張して相手方に対して給付を求める趣旨で申立てをし、かつ、申立ての相手方が給付を求める意思を有していない場合、すなわち、相手方が申立人から給付を受けないものとすることにつき当事者間に争いがない場合にまで、申立人に対して相手方への給付を命じる必要はないと解される。
以上を踏まえると、財産分与の処分に関する審判の手続において、その審判の申立人が、自らが給付を受けるべき権利者であると主張し、相手方に対してその給付を求めたが、審理の結果、申立人が給付を受けるべき権利者であるとは認められず、かえってその相手方が給付を受けるべき権利者であると認められる場合において、少なくとも相手方が、当該審判の手続において、自らが給付を受けるべき権利者であり、申立人に対して給付を求める旨を主張しているときは、審判の申立てを却下するのではなく、申立人に対して相手方への給付を命じることができるというべきであり、このことは、上記の場合において、申立人がその申立後に財産分与に関する処分の審判を求める意思を有しなくなったとしても、そのことに左右されるものではない。
上記裁判例と関連する問題として、財産分与を支払う側の配偶者が、自分が相手方配偶者に対し、財産分与を支払うべきであることを求めて財産分与の申立てをすることができるのか、という問題もあります。
わざわざそのような申立てをする人がいるのかと思われるかもしれませんが、離婚訴訟において、相手方配偶者が離婚自体を争っている場合、当該配偶者は、離婚を拒んでいる立場ですので、自らは離婚を前提とした財産分与の申立てをしてこないことがあります。
かかる場合、仮に判決で離婚が認められたとしても、財産分与についての問題は解決されていませんので、離婚後、相手方が財産分与の申立てをしてくることが予想されます。こういったケースでは、せっかく苦労して離婚が解決しても、次は財産分与の争いが続いてしまい、何年も裁判所と関わり続けなければならないといった事態もあり得ます。
そのため、どうせ財産分与を支払わなければならないのであれば、離婚訴訟のなかで一回ですべてを解決してしまいたいと思う当事者さんもいらっしゃいます。
今回の裁判例は、かかる論点については触れていませんが、上記裁判例の差し戻し前の最高裁判所令和3年10月28日決定は、財産分与の申立てがなされた場合の相手方は、たとえ財産分与の申立てが却下された場合でも(相手方にとって何等の不利益もないように思える場合にも)、かかる結果に対して、相手方が即時抗告をすることもできるとしています。
本論点については、明確に肯定した最高裁の判例はなく、学説上も肯定説否定説に分かれているようですので、裁判所にも相談しながら進めていくのがいいと思われます。
財産分与は、一度申立てをすると、自己に不利益な結果となる可能性があることを踏まえ、慎重に申立てをするか否かを判断する必要があるといえます。
逆に、財産分与を申立てていない側は、自らが申立てをしていなくても財産の給付を受けられる可能性はありますが、この点の裁判所の扱いが統一していない部分がありますので、そのような場合には、相手方からも財産分与について予備的反訴をしておくのが安全といえます。
なお、離婚訴訟において、離婚を拒んでいる当事者が、財産分与の整理に消極的な姿勢でいる場合がありますが、財産分与を含む離婚判決が確定した後は、再度の財産分与の申立てが認められない可能性があることにも十分注意をすべきといえます(参考 東京高等裁判所決定令和4年3月11日)。
以上のとおり、財産分与には、裁判所の扱いが必ずしも明確ではない争点が多数ありますので、疑問に思われることがある場合は、弁護士に相談してみることをお勧めします。
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