慰謝料を請求する相手としては、
という3つの場合が考えられます。
いずれを選ぶかは、不倫をしたことについて悪質性が強いのはどちらか、どのような証拠があるかなどによって決めていくことになります。
③を選んだ場合、不貞をした配偶者とその不倫相手は、共に不貞行為をした者として共同して責任を負いますので、双方合わせて適正な額の慰謝料を請求することになり、不貞した配偶者と不倫相手へ二重に慰謝料の請求をすることはできません。
不倫相手の氏名・住所や連絡先が簡単に分からないケースや、不倫相手の悪質性が低いケースなどでは、配偶者にのみ慰謝料請求することが考えられます。
ただし、事案の内容により、配偶者に対する請求が認められるケースと認められないケースの両方があります。
裁判で配偶者に対する不倫慰謝料の請求が認められた事例は、数多くあります。
慰謝料額の相場は、夫婦が離婚に至った場合で100万円~200万円程度、離婚に至らなかった場合で数十万円~100万円程度です。ただし、不倫の内容や期間、不倫開始時の夫婦関係の状況、婚姻期間、その他にも様々な事情によって慰謝料額は増えたり減ったります。
相場よりも高額の慰謝料が認められた裁判例として、夫の不倫が10年にも及び、不倫相手との間に子どもも生まれた上に、妻には生活費を渡さなかったという事例で、夫に対して1300万円の慰謝料の支払いが命じられたものがあります(東京地裁平成16年9月14日判決)。
一方では、夫が知人女性と1度だけ不貞行為をした事例で、婚姻関係が6ヶ月と短かったこともあり、慰謝料は40万円と低額にとどまったものもあります(東京地裁令和元年10月30日判決)。
不倫開始時において夫婦関係がすでに破綻していた場合には、配偶者に対する慰謝料請求は認められません(東京地裁昭和63年10月12日判決など)。
その理由は、すでに夫婦関係が破綻している場合には、配偶者の不倫によって平和な婚姻生活を侵害したことにはならず、不法行為が成立しないためです。
もっとも、夫婦関係が完全に破綻していることの証明は一般的に簡単なものではありません。裁判で配偶者に対する慰謝料請求が認められなかった事例としては、証拠が不十分で不倫の事実を立証できなかったケースが多いのが実情です。
配偶者に支払い能力がないケースや、離婚はしないけれど不倫相手には責任をとってほしいというケースなどでは、不倫相手にのみ慰謝料請求することが考えられます。
ただし、やはり請求が認められるケースと認められないケースの両方があります。
なお、請求が認められるケースでは、不倫・浮気をした配偶者と不倫相手は、適正な額の慰謝料を連帯して支払う義務を負います。そのため、不倫相手が慰謝料全額を支払った場合には、原則として半額を配偶者に対して求償できるようになります。
不倫相手に対する請求が認められるのは、不倫によって夫婦関係を破綻させることについて「故意または過失」があり、「因果関係」も認められる場合です。
あなたの配偶者が既婚者であることを不倫相手が知らなかった、かつ知らなかったことに落ち度がなかった、という場合は、故意も過失もないことになります。
不倫・浮気の事実はあっても、それ以前から夫婦関係が既に破綻していた場合には、因果関係が認められません。
不倫相手に「故意または過失」と「因果関係」も認められる場合には慰謝料請求が可能ですが、事案の内容により慰謝料額は増減されます。
相場よりも高額の慰謝料が認められた判例として、妻が不倫相手の子を妊娠したこと、夫婦間に2人の幼い子がいたこと、マイホームの建築直前だったのに不倫が原因で取りやめとなったことなどの事情から、不倫相手に対して慰謝料400万円の支払いが命じられたものがあります(東京地裁平成22年10月7日判決)。
一方では、不倫開始時に夫婦関係が破綻寸前であったこと、不倫相手に過失はあったものの故意はなかったことなどの事情から、慰謝料は40万円と低額にとどまった事例もあります(東京地裁平成30年1月23日判決)。
不倫開始時に夫婦関係が完全に破綻しており、不倫相手に対する慰謝料請求が認められなかった事例として、最高裁平成8年3月26日判決があります。
ただ、裁判例の傾向としては、不倫関係の事実があった以上は、少額でも不倫相手に対する請求を認めるケースが多いです。「故意または過失」や「因果関係」の証明は簡単でないことが多いからです。
不倫相手に対する請求が認められなかった事例の多くは、やはり、証拠が不十分で不倫の事実を立証できなかったケースです。
不倫をした配偶者と不倫相手は連帯して慰謝料の支払い義務を負いますので、両方に対して同時に慰謝料を請求することが可能です。
配偶者の不倫が原因で離婚する場合(関係修復を考えていない場合)は、できる限り両方に対する慰謝料請求を検討するとよいでしょう。
東京地裁平成21年4月8日判決では、妻が夫とその不倫相手に対して慰謝料請求をしたところ、800万円の慰謝料が認められました。
この事例では、不倫関係が17年以上に及んだこと、夫と不倫相手が子どもまでもうけたこと、夫は自宅に帰らなくなり妻に十分な生活費を渡さなかったこと、離婚届を偽造して役所に提出したこと、などから、夫と不倫相手の悪質さが著しいと判断されています。
他にも数多くの裁判例がありますが、認定された慰謝料額は事案の内容により様々に異なります。
両方に対して慰謝料請求をしたケースでも、既に婚姻関係が破綻していたり、不倫関係を立証する証拠が不十分であったりして、請求が認められなかった事例も存在ます。
ここでは、時効を理由として慰謝料請求が認められなかったケースをご紹介します。
夫が平成22年8月から他の女性と不倫関係となり、その後の平成23年10月から夫婦は別居を開始しました。妻は平成29年に夫と不倫相手の両方に対して慰謝料を請求しましたが、夫婦関係が破綻してから既に長期間が経過していたため、慰謝料請求権は時効により消滅していると判断されました(東京地裁令和3年9月6日判決)。
不倫の慰謝料は、原則として配偶者と不倫相手の両方に請求できます。3つのパターンのうち、どれを選ぶかは基本的に自由です。
ただし、不倫相手に「故意または過失」あるいは「因果関係」がない場合には、配偶者にのみ請求できます。
そのため、状況に応じて、誰に慰謝料を請求するかを検討することが大切です。また、不倫関係の事実を立証できる証拠を確保することも重要です。
慰謝料を請求する方法について詳しくは、「慰謝料請求の手順」をご覧ください。
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