離婚における金銭的な給付として、
主に①財産分与と、②慰謝料が問題となります。
①財産分与
婚姻期間中に夫婦が共同で形成した共同財産は、原則として2分の1ずつ分与されることになります。
②離婚に伴う慰謝料
離婚によって身体的・精神的苦痛を受けたと認められる場合、例えば、「相手方配偶者の不貞行為やDⅤなどによって離婚するに至った」と認められる場合には、慰謝料請求が認められます。
では、離婚の際に併せて行われることが多い、
法定の親子関係を消滅させる「離縁」の場合には、
①財産分与や②慰謝料を請求できるのでしょうか?
まず、離婚の場合においては、以下のとおり
①財産分与を請求できることが民法で規定されています。
【民法第768条 財産分与】 | |
---|---|
1項 | 協議上の離婚をした者の一方は、 相手方に対して財産の分与を請求することができる。 |
2項 | 前項の規定による財産の分与について、 当事者間に協議が調わないとき、 又は協議をすることができないときは、 当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。 ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。 |
3項 | 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。 |
これに対して、「離縁」の場合には明文規定や準用規定がありません。
なぜ明文規定がないのかというと、
養親親子関係は夫婦関係ほど濃密なものではなく、養子が年少であることが多い。
そのため、養子が養親とともに財産形成に寄与することは観念し難いため
であるとされています(「民法改正に関する国会関係資料」家裁資料34号225頁)。
このように離縁の場合においては財産分与を認める明文規定がないことから、裁判においても離縁による財産分与請求権は認められていません。
たしかに離縁調停や離縁訴訟の和解においては、財産分与を考慮して金銭給付の合意をすることは可能です。
しかし、それ以外の審判や訴訟において財産分与が認められた裁判は1件にすぎません(静岡家審昭和37年4月27日家月47巻11号86頁、ただし、離縁による財産分与を認めた根拠については触れられていません。)。
また、平成以降の裁判でも、離縁における財産分与については、
現行民法には、離婚による財産分与請求に関する規定を、
離縁について準用する旨の規定はない。
これを実質的意義から考えても、
夫婦間においては、「互いに協力して財産を形成する関係」があるのに対して、
養親子間においては、これと同様の関係は存しないのであるから、
両者を同一視することはできない。
そこに準用規定を置かなかった立法者の意思があるものと考えられる。
として、財産分与の規定がないことを理由に認めませんでした(東京地判平成5年12月24日家月47巻11号86頁)。
そのため、離縁においては財産分与請求は認められず、立法的解決を待つほかはないことになります。
他方で、離縁による慰謝料請求については、離婚の場合と同様に、「縁組当事者の一方は、有責な相手方に対して慰謝料請求ができる」ことに争いはありません。
その請求理由としては、
㋐悪意の遺棄、暴行といった離縁の原因となった個別的行為に対する精神的苦痛
㋑離縁そのものにより被った精神的苦痛
が挙げられます。
このうち㋑については、前掲東京地判平成5年12月24日においても、以下のように、離縁そのものについても慰謝料請求権が発生する場合があることを認めています。
離縁についても、
縁組によって期待された合理的な親子関係が破綻したことによって
精神的な苦痛を被った場合には、
慰謝料請求権が発生するというべきである。
しかし、養親子関係は、夫婦関係と異なって人間関係の緊密度が比較的薄く、
破綻によって受ける苦痛の程度も、離婚の場合に比較して一般的に低いということができる。
上記のように、この裁判例では、離縁による慰謝料請求権が発生することは認められました。
もっとも、
この裁判例の事案では、
として、結論としては、
養子から養親に対する慰謝料請求は認められませんでした。
なお、離縁によって法定親子関係が消滅して当然に相続権は失われるものであるから、相続に対する期待を「期待権」とし、この「期待権」の侵害を理由として不法行為に基づく損害賠償請求をできないとされています。(横田勝利「離縁に伴う慰謝料・財産分与」判タ747号251頁)
慰謝料の算定にあたっては様々な事情が考慮されますが、特に養親子関係の破綻原因、有責割合、縁組(同居)期間、双方の収入、資産、年齢等が重視されます。(前掲横田・251頁)
また、上記以外の事情でも、財産分与や扶養されることの期待も考慮されます。
ただ、どの程度の財産的利益が期待でき、法的に保護すべきであるかを慎重に判断しなければならないとされています。
さらに、前掲東京地判平成5年12月24日でも判断されたように、離縁の場合は、法定の親子関係の解消であることに加え、人間関係の緊密の程度が夫婦関係に比べて希薄であることが多いと考えられています。
そのため、養親子関係の破綻により当事者が受ける精神的苦痛の程度も、一般的に低く評価されることになります。
以上のとおり、離縁においては財産分与は認められていませんが、慰謝料請求は認めれています。
ただ、慰謝料請求についても、離婚の場合と比較して、実際に認められるためのハードルは非常に高いと思われます。
もっとも、紛争の全体的・一回的解決のために、離縁調停や離縁の訴えにおける和解において、養親子の財産形成に対する貢献等を考慮し、財産分与的な給付がなされることも多いです。(東京弁護士会法友全期会家族法研究会「離婚・離縁事件実務マニュアル」(第3版、ぎょうせい、2015年))
そのため、
「離縁において財産分与は認められない」
「慰謝料請求はハードルが高いから」
といって諦めず、まずは弁護士に相談してみることをお勧めいたします。
弁護士が、縁組に至った事情、縁組の目的、財産形成への貢献度、離縁に至った事情、離縁に至る原因の帰責性、離縁後の生活状況(経済状況)等の事情を踏まえ、財産的給付を主張いたします。ぜひお気軽にご相談ください。
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