Q. 夫から「借金が沢山ある。今後債権者が家に押し寄せてくると思うから、離婚した方がいい」といわれました。
私としては、離婚はしたくありませんでしたが、債権者からの取立てが恐かったのと、財産を確保するため、離婚しました。
その後、調べてみると夫には愛人がいることが分かりました。
なんだか夫にだまされているような気がするので、離婚を取り消したいのですが、どうしたらいいでしょうか？

本来なら離婚するつもりはなかったのに、何らかの理由により配偶者に騙されて離婚届を書いてしまうということもあるかもしれません。このような場合、離婚を取り消したいと思うこともあるでしょう。

本当は愛人と結婚したい夫が、「借金がある」と嘘の事実を言って妻に離婚させたような場合には、詐欺による離婚ということになります。詐欺による離婚は、取消しできることが民法でも定められています（764条→747条）。

詐欺による離婚の取り消しをするためには、騙されたことを知ってから3か月以内に家庭裁判所で手続きをしなければなりません。
取消し期間内に手続をしなければ、離婚を取り消すことができなくなってしまいます。

本件でも、夫に騙されて離婚してしまったけれど、やはり納得がいかないので離婚を取り消したいなら、3ヶ月以内に家庭裁判所に離婚取消しの調停を申し立てる必要があります。調停で両者の間に取消しの合意ができ、裁判所がそれを正当と認めれば、取消しの審判が下されます。そして、審判に異議申し立てがされなければ、取消しが確定することになります。

ところで、夫に騙されたのでなくても、「そもそも財産隠しのための離婚は、実質的に離婚する意思がないのだから無効ではないか？」と考えることもできます。離婚が成立するためには、離婚届を出す時点で双方が離婚する意思を持っているのが原則だからです。
お互い離婚する意思がないのに、合意のもとで離婚届を出し、形式的に離婚することを仮装離婚といいます。仮装離婚では、お互い実質的に離婚する意思がありませんから、離婚自体が無効なような気がします。

しかし、過去の裁判例では仮装離婚は有効とされています。離婚を成立させるためには、夫婦関係を実質的に終わらせようという意思までは必要なく、法律上の夫婦関係を解消させる意思があれば良いと考えられているからです。
つまり、仮装離婚だからといって無効にすることもできません。双方が納得して離婚届を提出した以上、有効な離婚ということになってしまいます。

なお、離婚が取消しや無効にならなくても、借金を抱えている夫から離婚に際して財産分与を受けたのなら、その財産分与が取り消されるおそれがあります。
民法では、「債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる」（424条）という「詐害行為取消権」が定められています。そして、判例では、財産分与が不相当に過大である場合には詐害行為に当たるとされています。借金のある夫と離婚したときには、分けてもらった財産を返さなければならないこともあり得るということです。