夫が無職で収入がありません。この場合、養育費はもらえないのでしょうか?
原則、無職の元夫から養育費をもらうことは困難でしょう。 しかし、元夫が働こうと思えば働くことができるのにあえて無職であることを選択している場合には、養育費の支払いが認められる場合もあります。
養育費とは未成熟の子を扶養するための金銭です。
そして、親の子に対する扶養義務は生活保持義務といい、これは子の親に対する扶養や兄弟間の扶養の義務より水準の高いものです。
具体的には、親は子が親と同程度の生活を送ることができる程度の扶養の義務を負担しているのです。
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養育費は両親が分担すべきものです。
但し、婚姻中の夫婦は生計を同一にしているため、別居していない限り、養育費の分担は問題になりません。
しかし、離婚後は親権者が1人で子を養育することになるため、養育費の分担のためにもう一方の親に対して養育費の請求をすることができます。
養育費の算定においては両親それぞれの生活費に回すことのできる収入を考慮します。 しかし、元夫が無職のため無収入のときには、仮に両親が結婚している場合でも養育費の負担は全面的に収入を得ている親が負うことになりますから、離婚後の養育費の請求をすることは困難でしょう。
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無職のため無収入の元夫に対しては原則離婚後の養育費を請求するのは難しいのですが、例外的にこれが認められるケースがあります。
それは元夫が心身共に健康であり年齢的にも働こうと思えば働くことができるのにあえて無職による無収入の状況を選択しているようなケースです。
このようなケースにおいては、公平の観点から元夫には潜在的稼働能力があると判断され、平均賃金の収入のあることを前提として養育費は算定されることになります。
この潜在的稼働能力の有無の判断について、過去の裁判例では、「就労が制限される客観的、合理的事情がないのに主観的事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、 そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情」があるかどうかという基準が示されています(東京高等裁判所令和3年4月21日決定)。
元夫が無職により無収入の場合には原則として養育費をもらうことが難しい以上、まずは元夫に子のためにも働くよう促しましょう。
そして、その際に仮に元夫が就労することを拒否した場合には、就労できない事情について聞いた上、必要であれば、その事情を証明する資料のコピーなどを渡すよう依頼しましょう。
次に、元夫が働かない理由が単に本人のやる気の問題など主観的な事情に過ぎないような場合には、例外的に潜在的稼働能力を前提に養育費が算定されることがある点について元夫に説明しましょう。
そして、その説明をした上で、いずれにせよ養育費の支払義務があるのだから、任意の支払に応じるよう説得しましょう。
当事者の話し合いでは解決しないときは弁護士に依頼して代わりに元夫と交渉してもらう手段が考えられます。
但し、この場合には当然、弁護士に依頼するとなれば弁護士費用が発生するため、相談する弁護士と解決の見通しを踏まえた費用対効果などについて事前によく話し合う必要があります。
また、元夫に働く気がない以上、交渉をしても応じないことも想定されます。
弁護士に依頼する場合でも、依頼しない場合でも、当事者の話し合いでは養育費の支払についての問題が解決しないときには、家庭裁判所に養育費分担調停を申し立てることになります。
この調停の申し立てにより話し合いの場は裁判所に移ります。
調停においては、元夫に潜在的稼働能力が認められる根拠になる資料を調停委員に見てもらい元夫に対し養育費を支払うよう説得してもらいましょう。
なお、調停においても問題が解決しない場合には、最終的に裁判所の判断(審判といいます。)により養育費の支払義務の有無及びその額が決まります。
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調停や審判により元夫の養育費の支払義務が認められたのに、なお元夫が養育費の支払をしてくれないようなときには、 裁判所により作成された元夫の養育費の支払義務の存在及びその内容の記載された調停調書・審判書に基づき強制執行することができます。
しかし、元夫が無職であり、強制執行の対象になる財産が存在しない場合には結局強制執行しても回収できないため、養育費の支払義務を必ずしも実現できるとは限らないことに注意しましょう。
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夫の収入がわからない場合には、まずは収入を証明する資料の提出を求めたり、家庭裁判所から夫に対して提出を促してもらうことが考えられます。
それでも夫が収入に関する資料を提出しなかったり、提出したとしても内容がごまかされていると考えられる場合には、夫の収入を推計して養育費を決めることが可能となることもあります。
夫婦は離婚しても、未成熟の子どもがいる場合には、その養育費を分担して負担していかなければなりません(民法766条1項、2項)。
適正な養育費の金額は子どもの年齢・人数によっても異なりますが、必要な金額を両親の収入に応じて分担するのが公平です。
そこで、裁判所が公表している養育費算定表では、子どもの年齢・人数および両親の収入に応じて、目安となる養育費の金額が掲げられています。養育費を請求する際には、この算定表を参照して具体的な金額を決めるのが一般的です。
そのため、適正な養育費を獲得するためには、夫の収入を正確に把握することが重要となります。
裁判所の養育費算定表は、世間にもある程度浸透しています。多くの場合、養育費を請求される側の人(義務者)も、収入に応じて養育費の支払い義務が生じることを知っています。
そのため、離婚問題になると、養育費の支払義務者は収入を隠したり、ごまかしたりすることがあり得ます。
「収入がわからなければ養育費の請求はできないだろう」と考えて収入を隠すケースもあれば、養育費の支払い額を抑えるために収入を低めに伝えてくるケースもあります。
このようにして収入をごまかされたままでは、妻(権利者)は適正な養育費を請求することが難しくなってしまいます。
夫から口頭で収入額を聞いたとしても、ごまかされている可能性が十分にあるのですから、収入を証明する資料の提出を求めることが極めて重要です。
収入の証明資料としては、会社員なら源泉徴収票、自営業者なら確定申告書の控えを用いるのが一般的です。
ただし、副業をしている会社員の場合、源泉徴収票には副業の収入が反映されていません。自営業者の場合も、納税額を抑えるために売り上げを過少申告したり、経費を過大申告したりして、実際の所得が確定申告書に正しく反映されていないことがあり得ます。
より正確な収入を把握するためには、市区町村の役所が発行する「課税証明書」の提出を求めることも考えられます。課税証明書にはその人のすべての収入が反映されているはずだからです。
とはいえ、自営業で、本人が収入や経費を正しく申告していない場合には、課税証明書の内容も信頼性に欠けることに注意が必要です。
課税証明書は、原則として本人でなければ取得できません。配偶者であっても、直接取得するためには本人が作成した委任状が求められます。
そのため、夫の課税証明書を取得するためには、どうしても夫に対して提出を求めなければなりません。
どうしても夫が提出しない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てた上で、調停委員から夫に対して提出するよう説得してもらうことも考えられます。
また、離婚訴訟や審判手続にまで進んだ場合には、「文書送付嘱託」を申し立て、役所から裁判所に提出するよう裁判所から依頼するという手続きもあります。
課税証明書を入手できたとしても内容の信頼性が乏しい場合や、課税証明書が入手できない状態で養育費を取り決めるためには、次善の方法として夫の収入を推計するという方法があります。
夫の収入を推計する方法として、第1次的には、生活状況などを考慮することが考えられます。
別居直前の家族の生活状況に照らして、「最低でもこれくらいの収入はあったはずだ」と推測する方法です。
その他にも、以前に夫の収入額を聞いたことがあれば、その金額を参考にして養育費の金額を話し合うことも考えられます。
これらの方法によれば、生活の実態に応じて妥当な金額の養育費を獲得しやすいというメリットがあります。
その反面で、夫に収入をごまかされても見抜くことは難しく、必ずしも適正な養育費を獲得できるわけではないというデメリットがあることにも注意が必要です。
より公平に養育費を取り決めるためには、信頼できる公的な統計資料に基づいて夫の収入を推計するという方法もあります。
日本の労働者の平均賃金に関する統計資料として「賃金センサス」というものがあります。これは、厚生労働省が毎年「賃金構造基本統計調査」を行い、性別や年齢、学歴別に平均賃金をまとめたものです。
家庭裁判所の審判や離婚訴訟でも、夫が収入の証明資料の提出に協力せず、他の方法で推計することも難しい場合には、最終手段として賃金センサスを用いて夫の収入を推計し、養育費の金額を決めることがあります。
例えば、令和3年の賃金センサスでは、大卒の男性で40~44歳の平均年収は674万7700円とされています。
仮に15歳と12歳の子どもがいて、妻が専業主婦で無収入だとすれば、算定表に基づく養育費の額は12~14万円となります。
養育費を取り決める際には、夫から適正な収入の証明資料の提出を受けて、話し合いで円満に解決することが望ましいことはいうまでもありません。
ただ、夫に「証明資料を提出してください」と言うだけでは、無視されたり、虚偽の資料を提出されたりする恐れがあります。
夫が適正な資料を提出しない場合には、「出す・出さない」でいつまでももめるよりも、ご自身の側で夫の収入を推計した上で養育費の金額を提示し、話し合いを進めるのもよいでしょう。
話し合いが進まない場合には、「賃金センサスに基づいて裁判所に決めてもらう」と申し向けてみましょう。
賃金センサスに基づく平均賃金は、実際の夫の収入よりも高いことが多いものです。夫としても、「賃金センサスで決められるくらいなら」と考え直し、適正な収入の証明資料を提出してくる可能性もあります。
夫の収入がわからなくても、養育費の請求ができないということはありません。
最終的には家庭裁判所の手続きが必要となりますが、賃金センサスに基づき相応の養育費を獲得できる可能性もあります。
弁護士に依頼すれば、このような最終手段も視野に入れて夫と交渉しますので、早期に適正な養育費を獲得することも期待できます。
これから養育費を請求するという場合には、時効は問題となりません。離婚してから何年が経過していても、子どもが成人するまでは、将来に向かって養育費を請求できます。
ただし、 既に養育費を取り決めている場合、支払期限が過ぎても支払われていない部分については、5年の消滅時効にかかります。
なお、家庭裁判所の調停や審判、離婚訴訟といった裁判手続きで養育費を取り決めた場合には、取り決めた過去分の養育費についての消滅時効期間は10年に延びます。
まだ養育費の取り決めをしていない場合は、将来発生する養育費の請求権が時効で消滅することはありません。
ただし、取り決めをしないといつ頃から発生し、請求できるかの問題が生じますので、過去の分まで遡って請求することはできない場合もあることに注意が必要です。
養育費とは、夫婦間の未成熟の子を育てるために必要となる費用のことです。離婚して親権者とならなかった側の配偶者も法律上の親子関係は続くため、養育費の支払い義務があるとされています(民法766条)。
したがって、離婚してから何年が経過しても将来発生する養育費に関しては、時効は問題とならず、子どもが成熟するまで、基本的には成人するまで(最近では大学卒業など延長することもあります)は養育費の請求が可能です。
例えば、離婚してから1年後に初めて養育費を請求したとします。この場合、離婚1年間に支払ってもらえなかった養育費を遡って請求できるのかという問題があります。
この点、家庭裁判所の審判例では、請求を認めたものと認めなかったものの両方があります。ですが、原則的には遡って請求することは認められないと考えられます。
なぜなら、養育費は子どもの日々の生活に必要なお金であって、今まで請求していなかったということは、元配偶者からの養育費がなくても生活できていたはずだと考えられるからです(東京家庭裁判所昭和54年11月8日決定など)。
その一方で、子どもの生活状況や、養育費の支払義務者の経済的余力などの状況によっては、公平に反しない限度で、過去も分についても請求が認められているケースもあります(宮崎家庭裁判所平成4年9月1日決定など)。
したがって、養育費を請求していなかった間に親権者が生活費のために借金をしていて、かつ、非親権者に過去の分も支払うことが可能な経済力がある場合には、過去の分の請求が認められる可能性があります。
また、相手が合意すれば事情にかかわらず過去の分を支払ってもらうことが可能なので、請求してみる価値はあります。
離婚時や離婚後に、両親の合意によって養育費を取り決めていた場合は、契約に基づく債権として具体的な養育費の支払い請求権が発生しています。そして、この請求権は通常は5年で消滅時効にかかります。
2020年4月1日から施行された改正民法によって時効制度が変わりましたが、結論として養育費の時効期間に変更がない場合が多いでしょう。
改正前の民法では、一般的な債権の消滅時効は10年とされていましたが(改正前民法第167条1項)、「年またはこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権」(定期給付債権)については、5年で消滅時効にかかるものとされていました。
養育費は通常、毎月支払われるものなので定期給付債権に該当し、5年の消滅時効の対象とされていたのです。
改正民法では、一般的な債権の消滅時効について「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」に短縮されました(改正民法166条1項1号)。養育費の請求権も、この条文に従って5年の消滅時効にかかります。
養育費を取り決めたにもかかわらず、支払義務者が不払いにすると、親権者はそのときに「権利を行使することができることを知った」ことになります。したがって、支払期限から5年で請求権が時効によって消滅してしまうのです。
不払いを放置していると、支払期限が到来したものから1ヶ月分ずつ順次、請求権が時効で消滅していきます。そのため、相手が養育費の支払いをストップした場合には、放置せず請求していくことが重要です。
民法上、「確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利」については、消滅時効期間が10年とされています(改正民法169条1項)。
養育費の請求権については、家庭裁判所の調停や審判、離婚訴訟で取り決められた場合がこれに該当します。
なお、「公正証書」も強制執行が可能という点では「確定判決と同一の効力を有するもの」に当たるのですが、消滅時効期間との関係ではこれに該当しないとされています(東京高裁昭和56年9月29日決定)。
したがって、養育費の取り決めを公正証書にしていても、消滅時効期間は5年であることに注意が必要です。
ただし、裁判所で決まっても、決まった時に弁済期が来ていないもの(将来に発生する養育費)には適用されませんので、注意が必要です。(改正民法169条2項)
5年、10年という時効期間は長いようにも思えますが、実際にはあっという間に過ぎてしまうものです。
ですが、時効の成立が間近に迫っても、その進行をストップさせることが可能です。それが「時効の更新」という制度です。
時効の更新とは、それまで進行していた時効期間がリセットされて、そのときから新たに、ゼロから時効期間が進行する制度のことです。
「裁判上の請求」や「強制執行」、「債務の承認」によって、時効が更新されます。
家庭裁判所で調停や審判を行うことが「裁判上の請求」に当たります(民法147条1項1号)。ただし、養育費の請求については、審判の前に必ず調停を申し立てなければならないこととされています(調停前置主義)。
既に家庭裁判所で養育費を取り決めていた場合や、公正証書がある場合には、強制執行を申し立てることで時効が更新されます(民法148条1項1号)。
また、支払義務者が債務を承認した場合も、時効が更新されます(民法152条1項)。未払いの養育費について、支払義務者が支払いを約束したり、一部でも支払ったりすると「債務の承認」に当たります。
時効の一時完成猶予とは、時効の更新とは異なり、時効期間が経過しても6ヶ月間は時効が完成しないものとする制度のことです。
裁判外で支払いを請求(催告)すれば、そのときから6ヶ月間は時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。
したがって、養育費の消滅時効期間が迫った場合には、まず内容証明郵便などで相手に対して支払いを請求し、時効の完成を一時猶予させることが大切です。
その後の6ヶ月の間に調停や強制執行を申し立てるか、相手と話し合うことにより、時効を更新させることが可能となります。
時効が成立しても、それだけで自動的に養育費の請求権が消滅するわけではありません。支払義務者が「時効の援用」をするまでは、請求すること自体は可能です(民法145条)。
ただし、調停や審判になると、相手が時効を援用して手続きが終了してしまう可能性が高いことにも注意しなければなりません。
養育費の不払いによって生活が困窮しているようであれば、その実態を相手に伝えて粘り強く交渉し、相手の理解を得て養育費を支払ってもらうことが重要となるでしょう。
まだ養育費の取り決めをしていない場合、時効は問題となりませんが、過去の分まで遡って請求するのは難しいことに注意が必要です。
いったん養育費を取り決めた後、不払いがあれば5年または10年で消滅時効にかかってしまいます。
養育費の支払いがストップすると、生活が苦しくなる方が多いことでしょう。不払いが発生したら、早期に弁護士にご相談の上、相手に請求して養育費を回収することをおすすめします。
夫婦が別居に至った原因が主として妻の不倫にあり、夫に何ら非がない場合には、妻からの婚姻費用の請求は「権利の濫用」に当たるため、支払う義務がない場合もあります。
ただし、夫にも何らかの非がある場合には、標準的な婚姻費用の額よりも減額した金額を支払わなければならない場合もあります。
また、婚姻費用には「配偶者の生活費」と「子どもの養育費」が含まれています。そのため、不倫した妻が子どもと同居している場合には、少なくとも「子どもの養育費」に当たる部分は支払わなければなりません。
婚姻費用とは、夫婦が生活していくために必要となる費用のことで、法律上、夫婦それぞれの収入や資産に応じて分担することとされています(民法760条)。
また、夫婦は互いに助け合って生活していかなければならないものとされており(民法752条)、この義務のことを「協力扶助義務」といいます。たとえ別居していても離婚が成立するまでは夫婦ですので、協力扶助義務は続きます。
そのため、法律上の原則としては、別居に至った原因を問わず、収入が高い側の配偶者は低い側の配偶者の生活を支えるために婚姻費用を支払う必要があります。どちらかが不倫をしたという事情は、慰謝料の問題として扱うべきであり、婚姻費用の問題とは切り離して考えなければならないのが基本です。
まずは、この原則を覚えておきましょう。
以上の原則を貫くと、夫婦間に著しい不公平が生じるケースがあることも否定できません。
妻が突然不倫をして家を出ていき、夫には何の非もないといったケースでは、夫としては妻に婚姻費用を支払いたくないと考えるのも当然のことです。
一方で妻は、他の男性と交際しながら夫からの婚姻費用で生活していくということもできてしまいます。このような状態を法律が容認することは、明らかに不当でしょう。
そこで家庭裁判所における実務では、別居の原因を主に作った配偶者からの婚姻費用の請求は、権利の濫用に当たるため認められないとしています(大阪高裁平成28年3月17日決定など)。
したがって、夫は妻から婚姻費用を請求されたとしても、権利の濫用を理由として支払いを拒否することができる場合もあります。
現実には、別居に至った原因が夫婦のどちらか一方にのみあるというケースは、意外に少ないものです。
たとえ妻が不倫をして家を出ていったとしても、その背景には以下のような事情が認められることもあるでしょう。
他にも様々な事情が考えられますが、夫にも別居の原因の一端が認められる場合には、不倫をした妻からの婚姻費用の請求を全面的に拒否することは公平ではありません。
実務上、このような場合には、妻からの婚姻費用の請求を認めているものの、標準的な額よりは減額される場合もあるようです。
どれくらい減額されるのかについては、具体的な事情を総合的に考慮して、夫婦双方の責任割合を判断することになります。
夫の責任割合が大きいと判断される場合には、原則どおり、標準的な額の婚姻費用の支払いが命じられる可能性もあることに注意が必要です。
妻が子どもを連れて別居している場合、婚姻費用には「配偶者の生活費」と「子どもの養育費」が含まれています。
たとえ妻が一方的に別居の原因を作ったとしても、子どもに非はありませんし、夫には子どもに対する養育義務があります。そのため、夫は「子どもの養育費」に当たる部分については、事情にかかわらず支払わなければなりません。
この場合の婚姻費用の金額は、算定表を参照しつつ、「生活費指数」を変更して算出します。簡単な事例を挙げて、実際に計算してみましょう。
このケースでは、算定表に基づく婚姻費用の額は8~10万円です。
この金額は、以下の生活費指数を用いて算出されています。
通常のケースなら、妻と子ども2人の生活費指数の合計は(100+85+62)で247となります。しかし、妻からの婚姻費用の請求が権利の濫用に当たる場合は、子ども2人の生活費指数のみで計算します。
子ども2人の生活費指数の合計は(85+62)で147となりますので、標準の額に147/247をかけることになります。
8~10万円×147/247=約4万7000円~約5万9000円
(注:計算方法は一例です。)
この計算方法を取ったケースでは、妻からの婚姻費用の請求を権利の濫用を理由として拒否できたとしても、子どもの養育費として約4万7000円~約5万9000円は支払わなければなりません。
不倫した妻からの婚姻費用の請求を実際に拒否するためには、不倫の事実を立証しなければならないという問題もあります。
妻が素直に認めればよいですが、否認した場合は夫の方で不倫の事実を立証しなければ、家庭裁判所の審判では原則に従って標準的な額の婚姻費用が認められてしまいます。
一般的に不倫の証拠としては、以下のようなものが有効です。
決定的な証拠がつかめない場合には、状況証拠を数多く集めることが重要となります。どのような証拠を、どのようにして集めればよいのかについては、弁護士に相談してアドバイスを受けた方がよいでしょう。
妻が不倫をして別居した場合は、婚姻費用のうち「妻の生活費」に当たる部分については支払いを拒否できるか、少なくとも減額することが可能です。
不倫した妻が実際に婚姻費用を請求してきた場合には、まず支払いを拒否し、妻が家庭裁判所に調停を申し立ててでも請求するのかどうか、様子をみてもよいでしょう。ただ、調停を申し立てられた場合は、審理終結する前に不倫の証拠を確保・提出しなければなりません。
できる限り早めに弁護士にご相談の上、適正に対処されることをおすすめします。弁護士を通じて妻と交渉することで、早期に解決できる可能性も高まります。
夫婦が別居して妻が実家に戻り、実家からの援助で生活している場合でも、基本的には夫に対して標準的な額の婚姻費用を請求できます。
ただし、妻が働けるにもかかわらず働いていない場合には、減額される可能性もあることに注意が必要です。
夫婦が別居を開始して、妻が子どもを連れて妻の実家に戻って生活するというケースがよくあります。そして、妻と子どもには実家からの援助があり、妻や子供が生活費を負担していないということもあるでしょう。
このような場合、妻が実際に生活費を負担していない以上、夫に対して養育費の請求はできないのではないかという疑問も生じます。
しかし、結論をいえば、原則として実家からの援助は考慮せず、妻は夫に対して標準的な額の婚姻費用を請求することが可能です。
法律上、妻と子どもの生活を支える第1次的な義務は夫にあります。この夫の義務のことを「生活保持義務」といいます。
妻の実家の両親などは、夫の収入だけでは妻子の生活を支えきれない場合に初めて、助ける義務を負っています。この実家の義務のことを「生活扶助義務」といいます。
したがって、本来のあり方としては、夫がその収入に応じて妻に婚姻費用を支払い、妻は受け取った婚姻費用の中から住居費やその他の生活費を実家の両親等に渡す、ということになります。実際、親子の間でも子どもが成人した以上は、このようにして生活費を清算している家庭も少なくないでしょう。
そして、裁判所が公表している婚姻費用算定表には、収入に応じた標準的な住居費などの生活費を含めて、目安となる婚姻費用の額が掲載されています。
結論として、妻は別居後に実家に戻ったとしても、婚姻費用算定表に基づき、夫婦それぞれの収入に応じた額の婚姻費用を請求できるということです。
問題は、妻と子が妻の実家から援助を受けていて生活費を負担していない場合にも婚姻費用を請求できるのか、ということでしょう。
このような場合には、夫から「妻と子に生活費がかかってないのだから、婚姻費用は支払わない」あるいは「減額されるべきだ」と主張されることが当然考えられます。
しかし、実家からの援助は、実家の好意に基づく贈与であると考えられます。夫がいる以上は、夫が第1次的に妻と子どもを扶養しなければなりません。妻の実家が妻と子どもに対して援助したとしても、通常は夫に対して援助しているわけではありません。
したがって、妻と子どもが妻の実家から援助を受けている場合であっても、夫は原則どおり、標準的な額の婚姻費用を負担しなければならないと考えられます。妻が生活費を負担していないからといって、婚姻費用が減額されることはありません。
家庭裁判所の実務でも、統一的な見解が定まっているとは言いがたいものの、多くのケースではこの考え方に従って審判が下されています。
婚姻費用は夫婦が分担して負担するものであり、夫が全面的に負担すべきものではありません。そのため、妻にも収入がある場合には、その収入に応じて婚姻費用が減額されます。
妻が専業主婦で無収入の場合は、原則として夫が全面的に婚姻費用を負担しますが、妻が働けるのに働いていない場合にまでこの原則を貫くと、不公平で夫に酷な結果となることも考えられます。
そこで、実務上は、実際には妻が働いていなくても、「潜在的稼働能力」があると認められる場合には、婚姻費用が減額されることもあるのです。
潜在的稼働能力とは、実際には働いていなくても、働こうと思えば働いて収入を得ることが可能な能力のことです。妻が働いて収入を得ることが可能な能力があるにもかかわらず、労働意欲がなくて働いていないような場合には、一定の収入があるものと見なされます。
ただし、妻が以下のような状況にある場合には、「潜在的稼働能力なし」(無収入でもやむを得ない)と判断されます。
妻が実家に住んでいる場合、子どもがある程度幼くても、妻の両親が子ども(孫)の面倒を見ることが可能な状況であれば、潜在的稼働能力が認められやすくなります。
潜在的稼働能力が認められる場合に、どの程度の収入があるものとみなされるのかは、ケースバイケースです。
妻が以前に定職に就いていた場合は、その当時の収入が考慮されることもありますし、賃金センサスと呼ばれる平均賃金のデータが参照されることもあります。
実務上、妻が以前から専業主婦であった場合には、アルバイトやパートタイムの平均的な収入を参考として、年収にして100~120万円程度の収入があるとみなされるケースが多くなっています。
簡単な事例を挙げて、実際に婚姻費用を計算してみましょう。
このケースで、算定表に基づく婚姻費用の額は6~8万円です。
妻と子どもは両親の援助で生活しているものの、妻の母親も専業主婦であり、子ども(孫)の面倒を見ることが可能であるとします。妻の体調等に問題なく働くことが可能であるにもかかわらず、実家からの援助があるのを良いことに働いていないとすれば、潜在的稼働能力が認められる可能性が十分にあります。
仮に年収にして100万円の収入があるものとみなされたとすると、夫に請求できる婚姻費用の額は4~6万円に減らされることになるでしょう。
婚姻費用の金額は、基本的に夫婦で話し合って決めます。
妻に潜在的稼働能力があるとしても、夫との話し合いで合意ができれば、算定表の基準どおりの金額や、それを超える金額でも婚姻費用をもらうことが可能です。
そのため、できる限り夫とじっくり話し合い、合意によって高額の婚姻費用を獲得することが得策であるといえます。
もし、夫から支払いを拒否されたり、過大な減額を主張されたりして話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所へ調停を申し立てることが必要です。
調停でも合意できない場合には審判の手続きに移行し、家庭裁判所が適正な養育費の金額を決めます。
別居中に妻が実家に戻り、両親等からの援助で生活している場合でも、婚姻費用の請求は可能です。
まずは夫とじっくり話し合い、必要な金額を請求してみましょう。話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の調停や審判が必要となりますが、その前に一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士が法的な観点から例かつ論理的に夫と交渉し、説得することによって、柔軟な解決を図ることも期待できます。
適正な婚姻費用を獲得するために、弁護士の力を借りてみてはいかがでしょうか。
婚姻費用を支払う側が、住宅ローンや水道光熱費等を支払っている場合、相手の生活費の一部を支払っていることになりますので、原則として、算定表で決まる婚姻費用の額から控除される場合があります。
ただし、住宅ローンについては全額が控除されるわけではありません。
夫婦が別居した後も離婚が成立するまでは、収入が低い側(権利者)から高い側(義務者)に対して生活費(婚姻費用)の支払いを請求できます。
持ち家の住宅ローンを支払いながら生活していた夫婦の場合、義務者が自宅から出ていき、権利者と子どもが住み続けるケースも少なくありません。そして、別居開始後も義務者が住宅ローンや水道光熱費等の支払いを続けて いることもあるでしょう。
このような場合、権利者は住宅ローンや水道光熱費等を無視して別途、婚姻費用を請求できるのでしょうか、それとも婚姻費用から住宅ローンや水道光熱費等は控除されてしまうのでしょうか。
結論をいいますと、義務者が支払っている水道光熱費等は婚姻費用から控除されますが、住宅ローンに関しては全額が控除されるわけではありません。したがって、多くの場合は別途、ある程度の婚姻費用を請求できます。
以下では、分かりやすくするために、夫が家を出ていき、妻と子が住み続けている自宅の住宅ローンや水道光熱費等を支払い続けているケースを想定してご説明します。
夫が妻と子のために住宅ローンを支払い続けている場合に婚姻費用をどのように算定すべきかについては、法律で明確に決められているわけではありません。そのため、さまざまな考え方があります。
例えば、住宅ローンは持ち家という夫婦共有財産に関する負債なので、財産分与の問題として取り扱うべきであるとする考え方もあります。この考え方によれば、婚姻費用から住宅ローンを控除すべきではないということにな ります。
しかしながら、夫が別途賃貸住宅を借りて生活している場合には、その家賃と持ち家の住宅ローンとを二重に負担しなければならず、生活が苦しくなってしまいます。その一方で、妻は住居費を一切負担していないにもかかわ らず、住居費も含めた婚姻費用をもらえることになり、これでは不公平な結果となります。
夫が住宅ローンを支払い続けるからこそ、妻と子は持ち家に住み続けることが可能となっていることは間違いありません。
そこで、このように義務者が住宅ローンと住居費の二重負担をしている時には、実務上は一般的に、住宅ローンの一部を婚姻費用から控除することとしています。
住宅ローンの支払いには、その住宅に住むための費用という側面だけでなく、資産形成のための費用という側面もあります。つまり、住宅ローンを支払えば、その分だけ住宅の資産価値が高まり、完済すれば夫が完全な所有権 を獲得するという側面があるのです。
それにもかかわらず、住宅ローンが婚姻費用から全額控除されるとすると、妻は夫の資産形成に見返りなく協力することになり、不公平な結果となります。
婚姻費用を公平に分担するためには、婚姻費用のうち、「住むための費用」に該当する部分のみを婚姻費用から控除する必要があるのです。
住宅ローンの一部を控除して適正な婚姻費用の額を計算する方法として、主に次の2つの考え方があります。
①は住宅ローンの支払い額から夫の資産となる部分を夫の収入から差し引いた上で、算定表を参照して婚姻費用の金額を求める方法です。
②は夫婦の収入に基づき算定表で金額を割り出した上で、そこから妻が負担すべき住居費を控除する方法です。
このうち、家庭裁判所の実務では、当事者の意見がまとまらない場合には②の方法で解決を図る方法が主流となっています(東京家裁平成27年8月13日決定など)。なぜなら、住宅ローンのうち夫の資産となる部分を正確に算 定するのは難しいのに対して、標準的な住居費は統計資料から簡単に割り出すことが可能だからです。
簡単な事例を挙げて、実際に婚姻費用を計算してみましょう。
このケースでは、算定表に基づく婚姻費用の金額は8~10万円です。
総務局統計局が公表している「家計調査年報」によれば、年収200万円の人の標準的な住居費は年度によって多少異なりますが、3万円弱とされています。そのため、妻が負担すべき住居費として約3万円を算定表の金額から 差し引きます。
そうすると、妻が夫に対して住宅ローンとは別に請求できる婚姻費用の額はおおよそ5~7万円程度ということになります。
住宅ローンとは異なり、水道光熱費等は婚姻費用から全額控除されるのが基本です。
なぜなら、婚姻費用とは夫婦の生活にかかる費用のことであり、水道光熱費等は生活費そのものだからです。その支払いに夫の生活費や夫の資産となる部分は含まれていません。
水道光熱費の他にも、妻と子の携帯電話代や教育費など、権利者側の生活費に当たる費用は基本的に全額控除されることになります。
仮に夫が妻と子の水道光熱費等として毎月平均して3万円程度を支払っている場合、算定表の金額から3万円を控除します。
上記のケースなら5~7万円からさらに3万円を差し引き、妻が夫に対して別途請求できる婚姻費用の額は2~4万円となります。<\p>
以上が基本的な考え方ですが、婚姻費用の金額は基本的に夫婦が話し合って決めるものであり、合意ができれば自由に決めることが可能です。
そのため、住宅ローンや水道光熱費等を控除した金額では生活が厳しいという場合には、具体的に必要な金額を提示し、夫とじっくり話し合って解決することが得策となります。
家庭裁判所の調停・審判に進むと、どうしても上記の考え方に基づいて機械的に婚姻費用の金額が決められやすく、高額の婚姻費用を獲得することは難しくなるからです。
夫婦が別居した後も夫が住宅ローンや水道光熱費等を支払い続けている場合、算定表に基づく婚姻費用の額から、妻の標準的な住居費と水道光熱費等が控除されるというのが基本的な考え方です。
ただし、婚姻費用の額は夫婦それぞれの生活実態を考慮しながら、話し合いによって柔軟に決めることが理想的です。
夫婦だけの話し合いでは意見が食い違うという場合には、弁護士を間に入れて、法的観点から話し合いを進めるのがおすすめです。事案によっては、基本的な額よりも高額の婚姻費用を獲得することも期待できます。
婚姻費用の金額を取り決めた後でも、夫婦の協議で合意すれば自由に変更できます。
夫婦だけの協議で合意できない場合でも、事情の変更があれば家庭裁判所の調停または審判で増額・減額が認められる可能性があります。
婚姻費用の金額に法律上の決まりはなく、基本的には夫婦で話し合って決めます。夫婦が合意すれば自由に金額を決めることができますので、一度決まった婚姻費用でも話し合いによって増額・減額することが可能です
夫婦間の協議で合意できない場合や、そもそも話し合えない場合には、家庭裁判所が婚姻費用の金額を決めることもあります。その場合には、夫婦それぞれの収入や資産、その他一切の事情が考慮されます(民法760条)
そのため、婚姻費用を取り決めた後に事情の変更があった場合には、改めて家庭裁判所に婚姻費用の金額を決め直してもらえる可能性があるのです。
どのような「事情の変更」があれば婚姻費用の増額・減額が認められるのかについては、家庭裁判所が個別の事案ごとに判断します。これまでの裁判例を見ると、以下のような要件が示されています(名古屋高裁平成28年2月19日決定など)。
それでは、婚姻費用の増額が認められやすいケースと減額が認められやすいケースについて、それぞれ具体的にみていきましょう。
婚姻費用の負担は夫婦で分担すべきものであり、負担割合を決める際に最も重視される要素は夫婦それぞれの収入です。したがって、婚姻費用を受け取る側の収入が取り決め時よりも大幅に減少した場合には増額が認められやすくなります。
ただし、楽をしたいという理由で転職や退職をした場合にまで婚姻費用を増額することは公平ではありませんので、一定の稼働能力があるとされて、増額は認められない可能性もあります。
一方、勤務先の倒産やリストラ、親の介護のために働けなくなったなど、やむを得ない事情による場合は増額が認められやすいといえます。
婚姻費用を支払う側の収入が大幅に増加した場合も、増額が認められやすくなります。
ただし、定期昇給や残業の増加などによる多少の収入増加で、取り決め時に予想できた範囲内であれば、増額は認められない可能性もあります。
会社員なら役職への昇格や転職、自営業者なら新たな取引先の獲得などによって、大幅に収入が増加した場合には増額が認められやすいといえます。
婚姻費用を受け取る側や子どもの病気や怪我で医療費の負担が増大した場合も、増額につながる要素となります。
ただし、日常生活で一般的に要する程度の医療費は、以前に取り決めた婚姻費用に含まれているはずです。婚姻費用の増額が認められやすいのは、高額の医療費を要する重病や重大な怪我をした場合や、治療が長引き特別な支出が続くような場合です。
子どもの教育費の増大も、婚姻費用の増額につながる要素となります。
ただし、私立の学校や大学への進学費用は当然に婚姻費用として請求できるわけではありません。夫婦双方の収入や資産の他にも、学歴や職業などの社会的地位・進学に関する同意の有無や話し合いの状況などを総合的に考慮して、婚姻費用として分担することが公平といえるかどうかが判断されます。
とはいえ、現在の社会では子どもが私立の学校や大学に進学するのは珍しいことではないので、ある程度の増額が認められるケースが多くなっています。
次に、婚姻費用の減額が認められやすい「事情の変更」についてみていきましょう。
受け取る側の収入が大幅に増加した場合には、それだけ婚姻費用の分担能力が増すため、支払う側からの請求により減額が認められやすくなります。
ただし、多少の増収では婚姻費用の減額は認められません。以前に取り決めた金額のままでは当事者間に著しい不公平が生じるような大幅な増収があった場合にのみ、減額が認められます。
受け取る側が専業主婦であったものの、取り決め後に就職して収入を得るようになった場合は、婚姻費用が減額される可能性が高いといえます。
支払う側の収入が大幅に減少した場合も、婚姻費用を減額しなければ当事者間の公平を保てなくなる可能性があります。
もっとも、取り決め時と同程度の収入を確保する能力があるにもかかわらず、個人的な事情で退職や転職をした場合には、減額が認められない場合もあります。基本的には、勤務先の倒産やリストラ、病気、怪我などのやむを得ない事情によって減収した場合に減額が認められやすいと言えます。
一度決まった婚姻費用を増額または減額するためには、まず夫婦で話し合いましょう。話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所で手続きを行うことが必要です。
夫婦の話し合いで合意ができれば、すぐに婚姻費用を増額または減額してもらうことができます。特に、事情の変更が認められない可能性が高い場合や、事情変更の証拠が十分でない場合には、話し合いで決着をつけることが得策です。
相手方に対して、増額や減額の必要性を具体的に説明して理解を求め、じっくりと話し合うようにしましょう。
夫婦だけの協議で解決できない場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てます。
調停は家庭裁判所で夫婦が話し合って解決を図る手続きですが、調停委員が話し合いを仲介します。さまざまな助言や説得を交えて話し合いが進められるので、夫婦だけで話し合うよりも合意に至りやすくなります。
調停でも合意できない場合には、審判の手続きに移行し、裁判所が一定の判断を下します。適正な判断を下してもらうためには、事情の変更について具体的に説明した上で、証拠によって立証することが不可欠となります。
調停を申し立てる前に、弁護士への依頼をおすすめします。夫婦だけでは冷静に話し合えない場合でも、弁護士から冷静かつ論理的に説明してもらえば、話し合いによって柔軟に解決できる可能性があるからです。
調停・審判が必要となった場合でも、弁護士が代理人として的確に手続きを進めますので、婚姻費用の適正な増額または減額が期待できます。
一度決まった婚姻費用でも増額・減額できる可能性がありますが、必ずしも思いどおりに増額・減額できるわけではありません。
まずは事情の変更が認められるかどうかについて、弁護士に相談してみるとよいでしょう。そして、スムーズに解決するためには、弁護士に依頼して専門的なサポートを受けることをおすすめします。
新型コロナウイルスの大流行により、社会情勢が大きく変わりました。
在宅ワークにシフトした企業も多くあると思います。
家族と過ごす時間が増え、この機会に一層家族の絆が深まったというご家庭もあるのではないでしょうか。
一方、残念なことに気になるニュースも耳に入っています。
それは、DVの相談件数の増加です。
2020年4月に、全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数は1万3272件(速報値)で、前年同月より約3割も増加しています。
内閣府は、この要因につき、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛の要請や休業要請などで生活不安やストレスが高まったことなどにあるとみており、今後も相談件数の増加が予想されます。
DV被害は家庭内で行われるものであるため、外部からの発見が難しいという特色があります。
自分の身を守るため、いざというときに相談できるよう、今回は、名古屋にあるDVの主な相談窓口について、ご紹介します。
名古屋市配偶者暴力支援センターは、配偶者からの暴力被害者の保護のため、被害者等からの相談、自立支援、保護命令の申立てに関する支援や関係機関との総合的な調整を行う機関です。祝日・年末年始を除く、平日午前10時から午後5時まで相談を受け付けてくれています。
DV被害者ホットラインは、公的機関が閉庁の日に、DV被害者からの電話相談を受け付けている機関です。
他にも、名古屋では、「名古屋市男女平等参画推進センター イーブルなごや相談室」「愛知県女性相談センター」「男性DV被害者ホットライン」など、配偶者からの暴力の根絶を目指し、活動を広げています。
(緊急性の高い事案については、110番通報もご検討ください。)
DVは、決してあってはならないことです。
発見が遅れれば、取り返しのつかない事態にも発展し得ます。
一人で抱え込まず、まずは、一度、ご相談ください。
弁護士 杉浦 恵一
2020年3月13日に配信された日本経済新聞の記事で、無断出産に関する損害賠償などが認められたという報道がありました。
事案としては、ある夫婦が受精卵を凍結保存しており、その後、この夫婦は別居したようですが、別居中に、妻が、受精卵移植を行うクリニックに対して、夫の署名を自分で記入した移植同意書を提出した上、凍結保存されていた受精卵を妻に移植させ、妻が出産したという事案のようです。
なお、この出産の後で、この夫婦は離婚しているということでした。
元夫は、元妻と受精卵移植を行ったクリニックに対して2000万円の損害賠償請求を行い、これに対して大阪地方裁判所では、2020年3月12日、元妻に対して、慰謝料などとして880万円を支払うように命じる判決が出されたようです。
この事案では、受精卵の移植を行ったクリニックに対しては、虚偽の署名がされた同意書とは簡単には判断できないということで、請求は認められませんでしたが、元妻に対しては、子供をもうけるかどうかという元夫の自己決定権を侵害したとして、請求が認められたということです。
なお、元夫は、別件として、生まれた子が嫡出子でないことの確認を求めて、大阪家庭裁判所に裁判を起こしたそうですが、こちらは親子関係が認められるということで、元夫の請求は棄却されている模様です。
日本では、晩婚化の進展とともに、高齢出産が増えてきているようです。今後、技術のさらなる発展に伴って、受精卵を凍結して保存しておく事例が増えていくのではないかと思われますが、いったん受精卵を保存したものの、その後、夫婦関係が悪化して、受精卵の取り扱いで揉める事例も増えていく可能性があります。
今回の事例では、880万円の損害賠償が認められたようですが、おそらく80万円は弁護士費用相当額(損害の1割)ではないかと予想されます。そうすると、裁判所は、800万円の損害賠償を認めたと考えられますが、報道からだけでは、どのような理由で800万円になったのか不明です。
過去には、新生児の時に取り違えられた子の慰謝料として3000万円が認められたという判例もありますので、精神的な苦痛に対しても、事実関係によっては謝料が高額になる可能性はあります。
これ以外にも、別件で親子関係が否定されなかったということですので、裁判所は、親子関係が否定されなかったことも考慮して、800万円の損害賠償を認めた可能性も考えられます。
親子関係が認められた結果、その後どのようになったのかは、今回の事案では分からないのですが、親子関係が認められている以上、理屈の上では、生まれた子は父親に対して、養育費を請求することが可能です。
また、親子ですから、理屈の上では、父親が亡くなった場合には、相続権を主張して、遺産分割に参加したり、場合によっては遺留分を請求したりすることも考えられます。
このように、一度親子関係が認められますと、長期にわたって色々な法的関係が生じることになります。
生まれた子自身には落ち度はありませんので、生まれた子の権利は保障しなければなりませんし、かといって父親の方には何の補償もなくてもいいのか、という問題もあろうかと思われます。
例えば、月3万円の養育費が認められ、それが20年間続きますと、累計では720万円になります。
裁判所は、こういったところから、それなりに高額の損害賠償を認めたという可能性も考えられます。
生命に関する医療・科学技術が発達しますと、これまでの法律では想定していなかった問題が生じる可能性がありますので、今後もこのような問題は増えていくのではないかと思われます。
結婚をすると、夫婦のいずれか一方が他方の姓を称し、その姓の戸籍に入ります。
では、離婚した場合、その姓や戸籍はどのようになるのでしょうか。
本稿では、離婚後の姓と戸籍についてご説明します。
結婚により姓を変えて、その姓の戸籍に入った人は離婚により元の姓に戻り、婚姻中の戸籍から抜けることになります。
婚姻中の戸籍から抜けるときは、元の戸籍に戻るか、新しい戸籍を作るのかを選択することができます。
しかし、離婚の日から3カ月以内に婚姻中の姓を続けて使用することを市町村役場に届け出ることで、離婚後も婚姻中の姓を名乗ることもできます。
同じ姓を名乗ることを選択しても、婚姻中の戸籍から抜けないという選択をすることはできません。
以上から、離婚後の姓と戸籍に関する選択肢は次の3つとなります。
離婚をすると夫婦関係は解消されますが、親子関係は解消されません。
そのため、子どもの姓と戸籍は親の離婚により何の影響も受けません。
しかし、離婚後、夫婦の一方が旧姓に戻り、その人が子どもを監護することになった場合、 姓が異なると社会生活を送る上で様々な支障が生じます。
そのため、そのような場合には、「子の氏の変更許可」を家庭裁判所に申し立てることにより、子どもの姓を変更することができます。
なお、そのような場合は、監護する親は新たな戸籍を作る必要があり、上述の選択肢でいうのであれば、②を選択する必要があります。
離婚後、婚姻中の姓を名乗り続けるためには離婚日から3カ月以内に届出をする必要があります。
しかし、一度は旧姓に戻したが、その後、婚姻中の姓を名乗りたいと思う場合や離婚後は婚姻中の姓を名乗ることとしたが、旧姓に戻したいと思う場合もあります。
このような場合も、家庭裁判所の氏の変更許可を得ることにより変更をすることができます。
もっとも、氏の変更は気軽に希望しただけでできるものではなく、「やむを得ない事情」が必要となります。
やむを得ない事情とは、氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合をいいます。
一般的に、離婚に伴う氏の変更について、婚姻中の姓を続けて使用する届出をした者が婚姻前の氏に変更する場合には、家庭裁判所は「やむを得ない事由」について緩やかに判断して認める傾向があります。
しかし、裁判所に適切に自分の主張を説明したり、書面を作成するには専門的知見が要するものであるため、お悩みになった際は、自分の望む結果を実現するため、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
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