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モラハラは「不法行為」にあたり、精神的苦痛を受けたとして、慰謝料を請求することができる場合があります。慰謝料請求は通常、離婚請求と併せて行います。モラハラによる慰謝料は一概にはいえませんが、モラハラにより離婚にいたったか、婚姻期間の長短、モラハラの内容・程度・頻度などによって異なります。
どのようなものがモラハラと認定され、どのぐらいの慰謝料が認められるのでしょうか。以下に、いわゆるモラハラが認定され、慰謝料が認められた裁判例として参考になるものを紹介します。
現在のようにモラハラという言葉が認知されていなかった頃の判決ですが、裁判所はモラハラを認定し、これを離婚原因と認めました。また、その責任が夫にあるとして、慰謝料請求を認容しました。モラハラという言葉が浸透した現在でも、基本的な考え方は変わらないと考えられます。
裁判例 東京地方裁判所判決/平成14年(タ)第418号
昭和54年に結婚し一男一女がいる夫婦の妻が、平成14年に離婚請求と慰謝料請求をしました。その原因として、妻は、夫の高圧的な態度を主張しました。この事案が特徴的なのは、夫は妻の身体に対して数回しか暴力をふるっておらず、しかも離婚前の10年間は暴力がなかったため、純粋にモラハラによる離婚・慰謝料が問題となった点です。
(1)裁判所は、夫の問題行動として、次のような事実を認定しました。
そして、このような夫の態度を示すエピソードとして、家族での外出の際、他車とトラブルを起こしたのを妻がなだめたところ、蛇行運転をしたり急ブレーキをかけたりして妻や子供らを怖がらせたことや、長女が希望する私立高校にお金がないとの理由で反対しながら、直後に新車を購入し「お前が都立高校に行ってくれたからクラウンが買えた。」と言ったことなどを挙げました。
このような夫の振る舞いにより、別居、話し合い、転居を繰り返す中、妻は体調不良をきたし、精神安定剤の投与を受けたこと、子供も、夫を怖がり情緒が不安定になったことを認めました。
(2)結論として、裁判所は、離婚請求を認容しました。また、妻が、長年の間夫の威圧的な態度の下で常に恐怖感を抱いて生活をしていることに耐え切れなくなったという経緯を考慮して、裁判所は、夫に対して、150万円の慰謝料を妻に支払うよう命じました。
まず、離婚の方法として、協議離婚があります。協議離婚とは、夫婦が協議し、離婚することに同意し、離婚届を役所に提出するという方法のことです。モラハラの被害者としては、配偶者に離婚の意思を打ち明け、離婚に同意してもらうことが考えられます。
しかし、実際には、協議離婚を成立させることは難しい場合も多いでしょう。モラハラの加害者は、自分は特別な存在だという自己意識が肥大している傾向があるため、離婚を切り出すことで逆上し、更に攻撃される可能性があります。また、逆に、激しく泣きつかれる場合もあります。いずれの場合も、同意にたどり着くのは大変です。被害者は、冷静な判断能力を欠いているため、途中で協議離婚をあきらめる結果となるケースが多くみられます。
また、離婚の方法として、裁判離婚があります。この方法は、裁判所の手続を利用し、配偶者の同意なしに離婚を成立させることができる点が特徴です。
ただし、離婚を成立させるには、民法770条1項各号に規定する離婚事由が必要となります。DVについて直接の定めはありませんが、DVは「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する典型例です。そこで、裁判では、モラハラにより「婚姻を継続しがたい」状況に陥っている事実を主張することになります。このような事実が認められれば、離婚が認められることになります。
モラハラを理由とした離婚を主張する場合、モラハラを主張・立証する責任は、モラハラ被害者の側にあります。
そのため、どのようなモラハラがあったか特定すること、その証拠をそろえることが必要となります。
しかし、モラハラは家の中で行われることが多い上、モラハラの加害者も家の外ではよい社会人であることも多いため、他の人の協力を得て立証することが難しくなります。そこで、モラハラの被害者は、自力で証拠をそろえなければなりません。モラハラ被害者にできる証拠収集の方法としては、モラハラ発言の内容の経緯を日記に書いたり、発言自体を録音するなどの方法があります。メールでモラハラ行為がなされた場合には、一連のメールを残しておけば証拠となります。また、精神的な暴力をうけ、PTSD(心的ストレス外傷)になった場合にはその旨の診断書をもらいましょう。
各家庭の状況、モラハラの状況に応じて、証拠となるものは異なります。意外なものが、証拠としての価値を持つということは、よくあることです。法律に詳しい専門家であれば、証拠の収集についても、適切にアドバイスをすることができます。モラハラで離婚をお考えの方は、専門家に相談してみると、解決に向かうかもしれません。
モラハラの加害者は、いかなる場合にも自分が正しいことを当然の前提として、被害者を責めます。
そのため、被害者も「相手が正しく自分が間違っているから怒られるんだ」と思い込むようになり、苦しい思いをしながらも、自分がモラハラの被害者であるとの意識が希薄になりがちです。しかも、被害者の「自分が間違っている」という意識は、加害者の「自分が正しい」という意識を増長させ、悪循環に陥ります。
また、モラハラのような精神的暴力は、身体的暴力と比べ、目に見える傷が残りにくいため、他人に被害が発覚しにくいという特徴があります。
このような特徴から、モラハラの被害者は、一人で悩みや苦痛を抱え込んでいることが多く、心的ストレス外傷やうつ病など、事態が深刻化して初めて明らかになるケースが多くみられます。
冷静な判断能力を失えば、自分がモラハラの被害者と判断できなくなり、被害が深刻化します。そこで、モラハラ被害の拡大を防ぐためには、被害者の冷静な判断能力を取り戻すことが必要となります。そのためには、他人に相談してアドバイスを受けることが適切です。
まず、家族や友人など、身近な人に相談することが考えられます。身近な人は、気軽に会って、話を聞いてくれるため、相談しやすいというメリットがあります。他方で、モラハラ加害者は社会的地位が高かったり、外面がよいという場合が多いため、身近な人に相談しても、逆に「あなたがもっとしっかりしなさい」などと言われ、追いつめられる危険があります。このように、身近な人に相談する場合、被害を深刻化させる危険をはらんでおり、デメリットも大きいと言えます。
次に、自治体のDV被害相談や、弁護士などの専門家に相談することもできます。確かに、自治体や専門家に相談するということは、ハードルが高いイメージがあります。しかし、最近は、明るい雰囲気や明確な料金体系を整えた事務所が増え、弁護士も以前よりずっと相談しやすくなりました。モラハラについてよく理解していますし、相談すれば、望ましい解決に向かう可能性がずっと高くなります。このように考えると、専門家への相談は、メリットが大きいうえに、デメリットがそれほど大きくありません。
モラハラなどのDVは、次の世代に連鎖する傾向があるといわれています。次の世代のためにも、勇気を出して、モラハラから脱却するよう、行動していただきたいと思います。
配偶者や交際相手からの暴力のことを、ドメスティック・バイオレンス(DV)といいます。この中には言葉や態度などにより相手に精神的苦痛を与える精神的暴力、いわゆるモラルハラスメント(モラハラ)も含まれます。
モラハラを受けている場合、速やかに他人に相談すべきです。現在、配偶者や交際相手の言動により、圧迫感や不安感を覚えている人は、自分がモラハラを受けている可能性があります。
しかし、自分がモラハラを受けているかどうか、判断できないということもよくあります。そこで、実際のモラハラの例を以下に列挙しますので、判断の参考にしてください。
モラハラの加害者には、自己愛性人格障害がある場合が多いといわれています。
自己愛性人格障害の特徴は、自分は特別な存在だという意識が肥大している点です。そのため、自己愛性人格障害を持つ人は、他人に対して、自分を特別な存在として扱うよう要求します。また、自分を守るためであれば、他人を貶めたり、攻撃することも厭いません。このように、自己愛性人格障害を持つ人は、他人の気持ちに無頓着になりがちです。
自己愛性人格障害を持つ人が全てモラハラ加害者になるわけではありません。しかし、このような性格の傾向は、モラハラへの親和性を見極める上でのヒントになります。
自己愛性人格障害の傾向があるか、簡単なチェックリストを設けました。配偶者や交際相手に不信感を抱いている人は、一度照らし合わせてみてください。
モラハラの被害者にも一定の傾向がみられます。モラハラの被害者には、「自分が悪いのでは」と思い込む傾向があります。このような傾向は、元々の性格に起因することもあるでしょうが、モラハラ加害者により、そのように思い込まされていることもあります。
いずれにせよ、被害者が加害者の言動を受け入れ、自分が悪いと思い込むことは、DVが激化する原因となります。何もせず、モラハラを受け続ければ、心的ストレス外傷などの重大な心の傷を負ってしまう場合もあります。そうなる前に、勇気を出して、他人に相談するようにしてください。
愛人と不貞関係にある、もしくは不貞関係にあった夫から「離婚したい。」と言われた場合、妻としては、悲しみと腹立ち、子供のこと、これからの生活の不安など様々な思いから、簡単には離婚に応じたくないというのが心情でしょう。
まず、離婚するかしないかについて夫婦間に合意がない場合、最終的には裁判で決することになります。かかる場合、裁判で離婚が認められるためには、民法第770条1項の要件を満たし、夫婦間の婚姻関係が破綻していると認められる必要があります。
次に、婚姻関係が破綻していると認められた場合に、有責配偶者からの離婚請求が認められるのかという問題になります。
主として婚姻関係を破綻させた原因を作った側を、有責配偶者といいます。今回でいえば不貞行為をした夫が有責配偶者です(もちろん、妻が有責配偶者である事案も多々あります。)。
ここで、有責配偶者とされた夫からは、そもそも、愛人をつくったのは妻の態度が悪かったせいだ、不貞行為をした段階で夫婦関係は既に破綻していた等の主張があるかもしれません。これらの主張は、大きな意味をもつ場合もありますが、これらについてはまた別の機会にお話しますね。
さて、有責配偶者からの離婚請求については、最高裁判所の判決(最大判昭62・9・2)があります。かかる判決は、有責配偶者から離婚請求が認められるためには、以下の要件を充たす必要があるとしています。
1. 夫婦の別居が相当長期間に及んでいること
2. 夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと
3. 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状況におかれないこと
1. 夫婦の別居が相当長期間に及んでいること
2. 夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと
3. 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状況におかれないこと
では、何年別居したら離婚できるのか、何歳の子がいたら離婚できないのか、気になるところですよね。しかしながら、実際のところ、スパっとした明確な基準はありません。裁判官がそれぞれの事情ごとに判断していきます。
ただ、別居期間については、別居が10年を超える場合には、相当長期間であると判断されることが多いようです。
約8年(最判平2.11.8)や約6年(東京高裁平14.6.26)でも、別居後の有責配偶者の対応状況や経済的援助、破綻に至る有責性の程度等を考慮し、離婚が認容された事案はあります。
また、最近、婚姻期間が約18年半であるのに対して別居期間が約1年半という事案で、離婚が認容されたものもあります(札幌家庭裁判所判決/平成26年(家ホ)第20号、平成26年(家ヘ)第2号)。
このように、有責配偶者からの離婚請求の場合、事案そのものによってある程度請求が認められるか否かが決まってはきますが、請求をする側、請求をされる側が裁判でどのような主張をするか、訴訟外でどのような対応をするかによっても結果は大きく左右されるといえます。
最近、離婚問題を行政書士に相談・依頼した後に、当事務所に相談・依頼される方が見えます。
そもそも、行政書士・司法書士による離婚法律相談は違法なのです。
弁護士の職務は、法律相談から契約書の作成・仲裁斡旋・交渉・裁判などの法律事一般です(弁護士法第3条)。
弁護士でない人(社団・会社などの法人も含みます)が法律事務を扱うのは、弁護士法第72条で、法律に別段の定めがない限り、非弁行為として禁止されています。
これに違反しますと、刑事罰(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金)の対象となります(弁護士法第77条(非弁護士との提携等の罪)第3号)。
行政書士は、行政書士法という法律で、「官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする」と定められています(行政書士法第1条の2(業務))。
このように行政書士は、例外的にかなり限定された一部の法律事務しか取り扱うことができません。
行政書士が離婚に関してできるのは、ご夫婦が話し合ってまとまった離婚条件の合意内容などを離婚協議書などの書面に作成することと、文書作成に際して、書き方・書式の形式など「書類作成に必要な範囲内」の相談であり、ご夫婦の財産分与・慰謝料・婚姻費用・親権問題やお子さんとの面会交流・養育費などの個別具体的な権利・義務関係についての相談はできません。
もちろん、交渉などをすることもできません。
離婚率は、近年高くなってきており、おおむね約30%となっております。また熟年離婚など財産分与がある程度見込める方の離婚が増えております。
そのため、最近、離婚カウンセラー、離婚のプロ、離婚専門行政書士、離婚専門司法書士など、離婚問題を食い物にする悪質な非弁(弁護士でない者が法律相談をしたり、有料で弁護士しかできないことをすること)業者等が増加しております。
例えば、「離婚相談所」や「離婚相談センター」等の名称でホームページを持っていることが多いのが特徴です。
センターや相談所等の名称は、離婚カウンセラーなどを前面に出したりして、巧みに親身になってくれるイメージを与えています。
しかし、現実は、離婚法律相談が違法な行政書士事務所・司法書士事務所だったり、何の資格もない者の違法な事務所であったりするに過ぎないという場合が非常に多いです。
離婚問題では、弁護士以外は、法律相談に答えてくれる訳ではありません。また、交渉や調停をしてくれるわけでもありません。
そのため、センター等の運営者が誰であるか見極めることが重要です。
センター等を弁護士が運営しているのであれば、その旨が必ず表示されています。
弁護士名(あるいは、運営の法律事務所名)が出ていないような場合には、まず違法業者かどうか、どのような違法業者かを確認することをお勧め致します。
また、よくあるのはうたい文句のように顧問弁護士・協力弁護士がいることをことさら歌っているケースです。
顧問弁護士・協力弁護士がいても、それは運営者ではありませんし、相談担当者ではありませから、違法であることに変わりません。
むしろそういう集客方法が問題なのです。
重要なことは、自分は離婚問題で今何をしてほしいのかをしっかり見極め、相談先を選定することです。
法律的な問題に関しては、経験豊富な離婚弁護士に相談することを強くおすすめいたします。
Q. 離婚の種類にはどのようなものがありますか?
離婚の種類は、協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚の4つあります。
このうち、協議離婚、調停離婚、審判離婚は離婚することについて双方同意することにより成立するものです。他方、裁判離婚は当事者の意思にかかわらず、裁判所が強制的に離婚を認めるものです。
日本における離婚の約9割は協議離婚であるといわれています。協議離婚の手続は簡便であり、夫婦が所定事項を記載した離婚届を役所に提出することにより成立します。
離婚届作成後、やっぱり離婚したくないと思った場合には、離婚届の不受理の申出という制度がありますので、この申出をしておけば、役所は離婚届を受理することはありません。
夫婦の協議により離婚について合意できない場合には、裁判所の手続を利用して離婚することになります。
その場合、原則としては、離婚調停を申し立てることになります。これは、日本では調停前置主義という制度が採用されており、夫婦の協議が調わない場合でも、いきなり裁判による強制的な形での離婚ではなく、まずは調停員という仲裁役の第三者を交えて再度協議してみて夫婦の合意による離婚の成立を試みることが望ましいという考え方に基づいています。
調停においては、調停員という離婚問題に関する専門家2名を交えて再度夫婦で離婚について話し合い、その結果、お互いに離婚することに納得した場合には、調停離婚が成立します。この調停員は通常男女1名ずつで構成されます。また、話し合いの方法は、通常、夫婦同席ではなく、夫婦の一方ずつの言い分を交互に聞いて互いの気持ちの擦り合わせを行う形で進められていきます。
調停による話し合いでも離婚について合意に達しない場合、裁判所が適当であると認める場合には、裁判官が離婚を認める審判を下すことがあります。しかし、この審判は当事者が異議を出さない限りにおいて有効とされているため、結局は当事者が離婚したくないということから異議を出せば離婚は成立しません。
でも離婚の条件など僅かな差で合意できない場合などは裁判官による審判により離婚が成立して解決する場合があります。
夫婦の合意による離婚が成立しない場合には、最終手段として裁判離婚という方法が残されています。この場合には、夫婦のうち離婚を求める当事者が裁判所に対して離婚を求めて訴訟を提起することになります。そして、裁判所は、当事者双方の主張する事実関係や提出証拠に基づいて、法律の定める離婚を認めるための要件を満たしているか判断します。
裁判所が離婚を認める判決を下せば、控訴などの不服申立により判決内容が覆らない限り、夫婦の一方が離婚したくないと思っていたとしても離婚は認められます。法律の定める離婚を認めるための要件の典型例は不貞行為ですが、その他、諸事情を考慮して婚姻を継続することが困難と認められる重大な事実があれば離婚は認められます。
なお、日本には協議離婚の制度があり、ほとんどの離婚は協議離婚ですが、外国には協議離婚の制度がなく離婚するには必ず裁判所の関与を必要としているところがあります。また、そもそも離婚という制度自体がない国すらあります。
Q. 不貞慰謝料請求したいと考えているのですが
夫婦の一方配偶者は、他方配偶者が配偶者以外の者と肉体関係を持ったことを理由として、これにより生じた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料を請求することができます。これが典型的な不貞慰謝料請求です。この場合、慰謝料を請求できる相手は、不貞を働いた配偶者と不貞の相手になります。
「不倫と認められるケース」について、詳しくはこちら
もっとも、不貞のなされた時点において既に夫婦関係が破綻している場合には、不貞慰謝料請求は認められません。また、不貞の相手が既婚者であることを知らず、かつ、知らなかったことについて何らの落ち度もないような場合には、不貞相手に対する不貞慰謝料請求は認められません。
「不倫慰謝料請求に対して反論できる場合」について、詳しくはこちら
配偶者と不貞の相手の双方に対して、不貞慰謝料請求できる場合には、双方に対して慰謝料全額を請求することができます。しかし、双方から、それぞれ全額の慰謝料を受け取ることはできません。
「不倫の慰謝料請求は誰に対してできるのか?」について、詳しくはこちら
たとえば、配偶者Aと不貞相手Bの不貞によりAの配偶者であるCが精神的苦痛を被った場合、その慰謝料を金銭的に評価すれば300万円であるとしたとき、Cは、AとBの双方に300万円の支払を請求できます。
しかし、Cは、AとBから合計600万円の慰謝料を受け取ることはできません。
なぜなら、Cの被った精神的損害は、あくまで300万円であって、600万円ではないからです。したがって、Cとしては、AとBの一方あるいは双方から合計300万円の慰謝料を受け取ることになりますから、たとえば、先に離婚する夫あるいは妻から慰謝料全額を受け取った場合には、不貞相手に対して慰謝料は請求できなくなる可能性があるのです。
もちろん、慰謝料額は600万円であると主張して双方に300万円ずつ請求することはできますが、最終的な裁判において、慰謝料額は300万円であると判断されれば、不貞相手に対する請求は否定されてしまいます。
また、先ほどの事例において、たとえば、配偶者AがAの配偶者であるCに慰謝料300万円を支払った場合、Aは、その支払のうち自己の責任割合を超える部分について、不貞相手のBに対して請求することができ、これを求償といいます。
具体的には、不貞に関するAとBの責任割合が半々であるときには、AはBの代わりに慰謝料150万円をCに払ったことになるので、AはBに150万円を求償することができるのです。
このような求償関係が発生するため、不貞相手に対して慰謝料を請求する場合には、若干の注意が必要です。
というのは、不貞相手から慰謝料全額の支払を受けた場合、後に不貞相手から配偶者が求償請求される可能性があるからです。このような場合、不貞を原因として夫婦が離婚に至ったときには、後に不貞相手が配偶者に対して求償することについては特段の問題は生じないのに対し、夫婦関係を継続していく場合には、配偶者は、不貞相手の求償請求に対して、夫婦生活のための金銭から求償に応じなければならないため問題が残ってしまうのです。
そこで、不貞相手に対する慰謝料請求の話し合いの中で、和解後、配偶者に対する求償請求はしなことを約束してもらうことにより、後々の問題を残さないようにする解決方法をとることがあります。
Q. 不貞慰謝料を請求されてしまったのですが
不貞慰謝料を請求された場合には、請求を拒否する場合と慰謝料金額の減額を求める対応の2つが考えられます。
そもそも不貞行為の事実のない場合には、これを理由に請求を拒否することで足りるでしょう。
このとき、必要があれば、相手に不貞行為に関する証拠の提示を求めましょう。なお、不貞行為の事実がない場合でも、不貞の疑惑を生じさせる行為をしてしまったことは認めて迷惑料を払ったり、裁判を回避するために解決金を払ったりすることで解決を図ることもありえますが、その場合に相手に払う金銭の額は少額となるでしょう。
「不倫慰謝料請求に反論する場合」について、詳しくはこちら
次に、不貞行為の事実は存在する場合には、基本的には、慰謝料を支払うべき義務を負うことになります。なお、証拠がない以上は請求を拒否するという対応はありえるところでしょうが、もし相手から証拠が出てきた場合には不誠実な対応を理由に慰謝料が増額される危険があります。
不貞行為当時、既に夫婦関係が破綻していたことを理由として、慰謝料請求を拒否することができます。不貞慰謝料は、不貞行為により夫婦関係の平和を害したことを理由とするものですから、そもそも夫婦関係が破綻しているときには不貞行為による損害はないからです。
ここでいう破綻とは、基本的には、別居中であり、既に夫婦間において離婚の合意のあるような場合であり、いわゆる家庭内別居について破綻と認められることは極めて例外的です。
相手が既婚者であると知らず、かつ、そのことについて落ち度のないことを理由として慰謝料請求を拒否できます。あるいは、不貞行為当時、既に夫婦関係が破綻していると落ち度なく信じていた場合についても同様に慰謝料請求を拒否することができます。
しかしながら、実際には、この2つの主張が認められることは例外であり、容易に認められるものではありません。
不貞行為の当事者の一方が既に慰謝料全額を支払っていることを理由として、慰謝料請求を拒否することができます。これは、不貞慰謝料は不貞行為の当事者双方に全額請求できるものの、双方又は一方から慰謝料全額の支払を受ければ、それ以上の請求はできないからです。
不貞慰謝料請求権は、加害者と損害を知ってから3年の経過により、消滅時効が完成します。そこで、相手が夫婦関係を継続している場合には不貞発覚から3年を経過していることを理由に慰謝料請求を拒否できます。また、相手が既に離婚している場合には、離婚から3年を経過していることを理由に慰謝料請求を拒否することができます。
以上は不貞慰謝料請求を拒否できる場合です。
不貞慰謝料の支払義務自体は否定できない場合には、慰謝料の減額を主張することになります。このとき、裁判において、慰謝料の金額は、相手の婚姻関係の期間、不貞関係の期間、不貞関係に至ったことについての主導性、不貞関係の態様などの諸事情を考慮して判断されることを念頭に減額主張することになるでしょう。
裁判になった場合における慰謝料金額の相場としては、相手が離婚しなかった場合は数十万円~100万円、離婚した場合には100万円~300万円であるとされていますから、減額主張するときの参考となるでしょう。
「不倫慰謝料の相場」について、詳しくはこちら
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